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最強の行動経済学 【医療現場の行動経済学】患者指導に効く距離の縮め方

【医療現場の行動経済学】患者指導に効く距離の縮め方

相談室で1週間の予定表を指しながら、男性患者と計画を立てる看護師

What you’ll learn

  • 自分からの距離が遠いほど物事を抽象的に考える「解釈レベル理論」と、ハワイツアーの例
  • 1か月先の生活改善に同意した患者さんが、その日が近づくと具体的な事情に直面する理由
  • 面談の中で直近1週間の予定を一緒に具体化し、見える障害を先に見つけておく方法
  • オーパワーのホーム・エネルギー・レポートが、類似家庭との比較で社会規範を仕組みにした事例
  • 記録表で同じ条件の患者さんの変化を並べる工夫と、自律性・意図の透明性・断れて選び直せる余地という前提

Author

相良奈美香

Behavioral Economist

相良 奈美香

Namika Sagara

行動経済学者・Ph.D.(オレゴン大学)。行動経済学コンサルティング会社代表として、アメリカ・ヨーロッパの約100社にコンサルティングを提供。イェール大学、スタンフォード大学などで講演。著書『行動経済学が最強の学問である』は累計20万部超のベストセラー。

メルマガ読者のみなさん、こんにちは。

行動経済学者の相良奈美香です。

今回は、医療現場に関わるメルマガです。

食事や運動について丁寧に指導して、患者さんも納得した様子だった。それなのに、次の受診では、生活がほとんど変わっていない。患者指導に関わる方なら、心当たりのある場面ではないでしょうか。

今日は、指導しても行動につながらない理由を行動経済学から読み解くお話です。

※ 医療の現場で使える行動経済学の話を、これからも記事にしていきます。

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1か月先の予定は、ぼんやりとしか見えていない

はじめに紹介したいのが、「解釈レベル理論」です。人は、時間的・空間的・心理的・社会的な距離が自分から遠いほど物事を抽象的に考え、近いほど具体的に考えます。

この理論を説明するとき、著書『行動経済学が最強の学問である』ではホテル付きハワイツアーを例に挙げました。「来年の夏休みはハワイに行こう」と考えている段階では、海や街並みといった抽象的なことをイメージしがちです。ところが、出発が直前に迫ると、空港からホテルまでのアクセスやお部屋の設備、アメニティといった具体的なことへ思考が変わりますよね。

患者指導でこの原理が効いてくるのは、例えば計画に同意してもらう場面です。1か月先の生活改善は、患者さんにとってはとても遠い予定です。遠い予定は「やるべきかどうか」で判断され、「本当にできるか」までは具体的に検討されません。面談で前向きな返事が返ってきても、いざその日が近づくと、仕事の都合や家族の食事といった具体的な事情が出てくるんですね。

そこで、面談の中でその距離を縮めておきます。開始日を先に延ばさず、直近の1週間について、いつ、どこで、何をするかまで一緒に具体化する。見える障害をその場で先に見つけておくと、計画は実行しやすくなります。

似た条件の家庭と使用量を並べると、省エネが進む

もうひとつ紹介したいのが、「社会規範」です。自分と同じ立場の人がどうしているかを、人は自分の行動の目安として受け取りやすいのです。

同書では、アメリカで省エネサービスを提供するオーパワーという会社の取り組みを取り上げました。この会社は、各家庭に「ホーム・エネルギー・レポート」という書面を届けています。そこに載っているのは、自宅のエネルギー使用量を地域の類似家庭と比較した情報です。平均より少ないか多いかが一目で分かる表示に加えて、エネルギー効率の良い隣人の情報も添えられています。このレポートから、エネルギー効率化の社会規範が生まれ、結果としてエネルギー消費量の減少につながりました。配布先は2007年以来、1700万以上のアメリカの家庭にのぼります。

オーパワーが工夫したのは、社会規範を「仕組み」として組み込んだ点です。レポートが目安を示す形になっているのです。

患者指導なら、記録表やフィードバックの際に渡す紙で、この考え方を活かせます。本人の数値の推移の隣に、同じ条件の患者さんたちの一般的な変化を並べてみる、というのも一つの方法です。取り組んでいるのは自分ひとりではないと感じられると、続けやすくなりますよね。

しかし、まとまったデータを用意できない場面もあるでしょう。そうしたときは、面談のなかで「同じような患者さんも取り組んでいます」と言葉で添えると、社会規範の後押しが期待できます。

ここで前提になるのが、患者さんの自律性と意図の透明性、そしていつでも断れて選び直せるようにしておくことです。その働きかけを患者さんにそのまま説明できるかどうかを、判断の目安にしてみてください。

解釈レベル理論と社会規範のほかにも、患者指導と関わりの深い理論があります。今の負担を優先してしまう現在志向バイアスと双曲割引、そして計画を甘く見積もる計画の誤謬です。患者さんが指導を守れない理由を「認知のクセ」と「状況」、そして「感情」の3つで整理する全体像とあわせて、こちらの記事で紹介しています。

▼患者指導が行動変容につながらない理由 — 行動経済学で「守れない」を読み解く

面談の組み立てを、行動経済学から考える

面談で決めたことが守られない背景には、遠い予定がまだ具体的に見えていないことや、ひとりで取り組んでいる状態があります。行動経済学は、こうした事情を長く研究してきた分野です。行動経済学が医療の現場で役に立つのは、こういうところだと思っています。

診療や患者指導に行動経済学を取り入れる話は、この先も記事にしていく予定です。医療のお仕事をされている方でなくても、興味があればご登録いただけます。購読は無料です。

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FAQ

よくある質問

Q面談で前向きな返事をもらった計画が、守られないのはなぜですか?

解釈レベル理論では、自分からの距離が遠いほど人は物事を抽象的にとらえ、近づくにつれて具体的に考えるようになります。ここでいう距離は、時間的・空間的・心理的・社会的なものを指します。1か月先の生活改善は、患者さんにとってとても遠い予定です。遠い予定は「やるべきかどうか」で判断され、「本当にできるか」までは具体的に検討されません。いざその日が近づくと、仕事の都合や家族の食事といった具体的な事情が出てくるのです。

Q患者指導で、計画を実行しやすくするにはどうすればよいですか?

面談の中で、計画までの距離を縮めておきます。開始日を先に延ばさず、直近1週間の予定をいつ・どこで・何をするかまで一緒に具体化します。見える障害をその場で先に見つけておくと、計画は実行しやすくなるのです。

Q社会規範は、患者指導にどう活かせますか?

同じ立場の人がどうしているかを、私たちは自分の行動の目安として受け取りやすいものです。アメリカで省エネサービスを提供するオーパワーは、各家庭に「ホーム・エネルギー・レポート」という書面を届けています。載っているのは、自宅のエネルギー使用量を地域の類似家庭と比較した情報です。このレポートから効率化の社会規範が生まれ、結果としてエネルギー消費量の減少につながりました。配布先は2007年以来、1700万以上のアメリカの家庭にのぼります。記録表やフィードバックの際に渡す紙なら、本人の数値の推移の隣に同じ条件の患者さんたちの一般的な変化を並べるのも一つの方法です。まとまったデータを用意できない場面では、「同じような患者さんも取り組んでいます」と言葉で添えると後押しが期待できます。どの働きかけも、患者さんの自律性と意図の透明性、いつでも断れて選び直せることが前提です。

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