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最強の行動経済学 善意のお礼が、やる気を下げる

善意のお礼が、やる気を下げる

会議室のホワイトボードの前で、同僚4人に勉強会を進める男性社員

What you’ll learn

  • 「楽しい」とか「やりたい」で続けていた行動に金銭的な報酬などが加わると、かえってやる気が下がることがある「過剰正当化効果」の中身
  • 心の内側から湧き上がる「内発的動機」と、外からの報酬の関係
  • 自主的な社内勉強会に手当を出した企業で、手当の額が削減された後に勉強会が開かれなくなった事例
  • 初めての業界団体での発表後、お礼に20ドル分のスターバックスのギフトカードを受け取った相良奈美香の体験と、その後日談
  • ビジネスで報酬を扱う場面で、金額の大小より先に考えたいポイント

Author

相良奈美香

Behavioral Economist

相良 奈美香

Namika Sagara

行動経済学者・Ph.D.(オレゴン大学)。行動経済学コンサルティング会社代表として、アメリカ・ヨーロッパの約100社にコンサルティングを提供。イェール大学、スタンフォード大学などで講演。著書『行動経済学が最強の学問である』は累計20万部超のベストセラー。

メルマガ読者のみなさん、こんにちは。

行動経済学者の相良奈美香です。

「やりたいことを仕事にしたはずなのに、なぜかやる気が上がらない」。こう感じたことがある人は、少なくないのではないでしょうか。

今日は、この不思議な現象にかかわる「過剰正当化効果」のお話です。

報酬がやる気を下げる

本来なら、好きなことをやっていれば、やる気は高まりそうですよね。ところが実際には、趣味だったものや自発的にやっていたことを仕事にした途端、楽しさが薄れたりやる気が下がったりすることがあります。人の意欲や好奇心は、どんな状況が用意されるかによって大きく変わるのです。

もともと「楽しい」とか「やりたい」と感じて行っていた行動に、金銭的な報酬などの外からの動機が加わる。すると、かえってやる気が下がってしまうことがあります。これが「過剰正当化効果」です。

「楽しい、やりたい、役に立ちたい」は心の内側から湧き上がってくる「内発的動機」です。報酬がもらえるということ自体は、得しかないように思えます。しかし、人間の心はそう単純には動きません。外からの報酬は、この純粋な気持ちを思わぬ形で塗り替えてしまうことがあるのです。

手当を出したら、勉強会が止まった

これは理論上の話にとどまりません。私がこれまでに関わったクライアント企業でも、まったく同じことが実際に起きていました。

ある企業で、自主的に社内勉強会を開催している社員がいました。会社は「素晴らしい取り組みだから支援しよう」と考え、その勉強会に手当を出すことにしたのです。最初は、その社員も喜びます。「ちゃんと評価してもらえた」とか「会社が応援してくれている」と感じたからです。

ところが、半年ほど経って、会社の都合で、手当の額が削減されることになりました。すると、その社員は勉強会を開かなくなりました。「手当が出ないなら、やる意味がない」と感じてしまったんです。つまり、勉強会は、「自分がやりたいこと」から「報酬のためにやる仕事」へと意味づけが変わってしまっていたわけです。

20ドルのスターバックスギフトカード

私自身にも、苦い実感があります。社会に出たばかりの頃、初めて業界団体の会合で発表することになりました。私は、学問の世界にいた自分が、一般企業の方に話を聞いてもらえる貴重な場だと感じていました。無償でも構わないという気持ちで、準備に多くの時間と労力をかけました。

ところが発表後、主催者の方からお礼にと渡された封筒には、20ドル分のスターバックスのギフトカードが入っていました。「自分の発表の価値は20ドルだったのか…」と感じて、とてもがっかりしたのを覚えています。

ちなみに、この話には後日談があります。実はアンケートで、私の講演が、その時の他の講演の中で一番高い評価を得ていたことを、翌年の会合で知らされました。そのことは、私にとっては、ギフトカードとは比べものにならない「報酬」です。行動経済学の効果を、個人的にしみじみと実感したエピソードでした。

善意の報酬が、裏目に出るとき

報酬を出すこと自体は、善意です。勉強会の会社も、ギフトカードの主催者も、出した側は感謝や応援のつもりだったでしょう。それでも、受け取る側のやる気にとっては、逆に働くことがあります。人のモチベーションは、報酬を増やせば増えるという単純な足し算にはなっていません。社内の手当だけでなく、顧客やパートナーの自発的な協力へのお礼でも、同じことが起こりえます。

だからこそ、ビジネスで報酬を扱う場面では、金額の大小より先に考えたいポイントがあります。その報酬が、相手の「やりたい」気持ちを、かえって削いでしまわないか。行動経済学は、このことを見極めるヒントを与えてくれます。

FAQ

よくある質問

Q過剰正当化効果とは何ですか?

もともと「楽しい」とか「やりたい」と感じて行っていた行動に、金銭的な報酬などの外からの動機が加わる。すると、かえってやる気が下がってしまうことがあります。これが「過剰正当化効果」です。趣味だったものや自発的にやっていたことを仕事にした途端、楽しさが薄れたりやる気が下がったりすることがあるのも、この効果にかかわる現象です。

Q報酬を出したことで、やる気が下がった実例はありますか?

相良奈美香が関わったクライアント企業で、実際に起きていました。ある企業が、自主的に社内勉強会を開催している社員に手当を出すことにしました。最初はその社員も、「ちゃんと評価してもらえた」と喜びます。ところが半年ほど経って、会社の都合で手当の額が削減されると、その社員は勉強会を開かなくなりました。勉強会の意味づけが、「自分がやりたいこと」から「報酬のためにやる仕事」へと変わってしまっていたわけです。

Q感謝や応援のつもりで出した報酬でも、逆効果になることはありますか?

報酬を出すこと自体は善意です。それでも、受け取る側のやる気にとっては、逆に働くことがあります。人のモチベーションは、報酬を増やせば増えるという単純な足し算にはなっていません。社内の手当だけでなく、顧客やパートナーの自発的な協力へのお礼でも、同じことが起こりえます。その報酬が相手の「やりたい」気持ちをかえって削いでしまわないかを、金額の大小より先に考えたいところです。

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