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最強の行動経済学 予定どおりに終わらない、本当の理由

予定どおりに終わらない、本当の理由

夕方のオフィスで、壁に貼られた予定表を見上げて表情をこわばらせる日本人のビジネスパーソン

What you’ll learn

  • 実行や完了に必要な時間・コスト・リソースを過小評価してしまう「計画の誤謬」の中身
  • 個人の予定だけでなく、国家レベルの巨大プロジェクトでも同じ過小評価が起こること
  • 客観的な根拠なく「自分は大丈夫」と思う「楽観バイアス」と、遠い先のことほど抽象的に考える「解釈レベル理論」という二つの認知のクセ
  • 実際にかかった日数の多くが最悪のシナリオでの見積もりに近く、参加者全体の10%はそれでも間に合わなかった研究
  • 当人は「現実的に計算した」と感じているだけで、影響に気づけないという「計画の誤謬」の手強さ

Author

相良奈美香

Behavioral Economist

相良 奈美香

Namika Sagara

行動経済学者・Ph.D.(オレゴン大学)。行動経済学コンサルティング会社代表として、アメリカ・ヨーロッパの約100社にコンサルティングを提供。イェール大学、スタンフォード大学などで講演。著書『行動経済学が最強の学問である』は累計20万部超のベストセラー。

メルマガ読者のみなさん、こんにちは。

行動経済学者の相良奈美香です。

私が独立してコンサルティング会社を立ち上げたばかりの頃のお話です。あるプロジェクトを「1日5時間やれば、10日間で終わる」と見積もって受けました。ところが、いざ始めてみると、他の案件のやり取りに追われて、こちらには1日3時間ほどしか割けません。1週間が過ぎたところで予定の半分も進んでおらず、青ざめた記憶があります。

「きちんと計画を立てたのに、全然間に合わない」という経験、みなさんにもあるのではないでしょうか。仕事のプロジェクトでも、試験勉強でも、家事でも、頻繁に起こる現象です。

今日のメルマガはこの「ズレ」の正体である、行動経済学の概念「計画の誤謬」のお話です。

計画は、なぜ甘くなるのか?

「計画の誤謬(Planning Fallacy)」という概念があります。何かを実行・完了させるために必要な時間・コスト・リソースを、人が過小評価してしまう認知のクセのことです。

面白いのは、これが個人に限った話ではないこと。国家レベルの巨大プロジェクトでも、計画の誤謬は起こりがちです。誰でも陥るこの現象は、人間という生き物に共通して備わっている認知のクセであり、さまざまな研究で繰り返し確認されてきました。

背景にある二つの認知のクセ

では、なぜ人間はこれほど計画を甘く見積もってしまうのか。背景には大きく二つの認知のクセが関わっています。

一つは「楽観バイアス」です。客観的な根拠がないにもかかわらず、「自分は大丈夫」と思ってしまう傾向のこと。「だいたいこのくらいで終わるだろう」と事前に立てる見通しには、自分の理想がかなり混ざってしまっています。事故や災害について「自分は大丈夫」と感じてしまうのも、同じバイアスから来ています。

もう一つは「解釈レベル理論」と呼ばれるもの。人は時間的・空間的・心理的・社会的に距離が遠いものほど、抽象的かつ大まかに考える傾向があります。今日や明日のことは具体的に考えられても、1週間先や1カ月先のことは「なんとかなるだろう」と漠然と捉えてしまう。

夏休みの宿題をギリギリまで溜めてしまったり、テスト勉強が一夜漬けになったり、長期休暇前に徹夜で仕事を片づける羽目になる。すべて、この二つの認知のクセが裏で働いた結果なのです。

「最悪のシナリオ」のほうが現実に近い

ある研究があります。プロジェクトに実際にかかった日数を調べたところ、ほとんどのケースで「楽観的なシナリオでの見積もり」を超えていました。むしろ「最悪のシナリオでの見積もり」のほうに近かったと報告されています。しかもそのうちの10%は、その最悪なシナリオで見積もった日数でさえも間に合いませんでした。

私たちが「最悪、これくらいかかるかも」と覚悟する見積もりですら、まだ甘い可能性があるということ。直感的な見積もりが、いかに楽観に寄りになっているかが見えてきます。

私自身、コンサルティングの仕事では時間の見積もりが信用に直結します。総時間で費用が決まる以上、見積もりが甘いとその分が持ち出しになる。経営的にも痛手です。時間管理は、経営者にとって非常に重要な能力なのです。

気づけるかどうかが分かれ目

計画の誤謬が手強いのは、自分が影響を受けていることに、本人がなかなか気づけないことです。

計画を立てている瞬間、頭の中では「これくらいでいけるだろう」という楽観バイアスが働いています。同時に、未来の作業については解釈レベル理論によって「なんとなく大丈夫そう」と抽象化が進んでいます。けれど多くの場合、当人は「現実的に計算した」と感じているだけで、認知のクセが作動しているという自覚はありません。

自分の今の見積もりに、どれくらい楽観が混ざっているのか。先のことだから抽象的に処理してしまっていないか。一度立ち止まって眺めてみる。ここに気づくことが、計画の誤謬と上手に付き合う第一歩になります。

FAQ

よくある質問

Q計画の誤謬とは何ですか?

「計画の誤謬(Planning Fallacy)」は、行動経済学の概念のひとつです。何かを実行・完了させるために必要な時間・コスト・リソースを、人が過小評価してしまう認知のクセを指します。個人の予定に限らず、国家レベルの巨大プロジェクトでも起こりがちです。人間という生き物に共通して備わっているクセであり、さまざまな研究で繰り返し確認されてきました。

Qなぜ人は計画を甘く見積もってしまうのですか?

背景には大きく二つの認知のクセが関わっています。一つは「楽観バイアス」です。客観的な根拠がないにもかかわらず、「自分は大丈夫」と思ってしまう傾向を指します。もう一つは「解釈レベル理論」と呼ばれるものです。人は時間的・空間的・心理的・社会的に距離が遠いものほど、抽象的かつ大まかに考えます。今日や明日の作業は具体的に見えても、1カ月先は「なんとかなるだろう」と漠然と捉えてしまう。両方が同時に働くことで、見積もりは甘くなります。

Q計画の誤謬とうまく付き合うには、どうすればよいですか?

計画の誤謬が手強いのは、自分が影響を受けていることに本人がなかなか気づけないからです。多くの場合、当人は「現実的に計算した」と感じているだけで、認知のクセが作動しているという自覚はありません。自分の今の見積もりに、どれくらい楽観が混ざっているのか。先のことだから抽象的に処理していないか。一度立ち止まって眺めてみることが、上手に付き合う第一歩になります。

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