What you’ll learn
- 集まった声に応えて開発したヘルシーなメニューが、全く売れなかったこと
- アンケートに答えるときと実際に買うときとでは、働いている脳が違うこと
- 自分の好みで選んだつもりでも、その時の周囲の状況に動かされている「選好の構築」という現象
- 答えの分からない質問には大きく四つのタイプがあり、それぞれ何が返ってくるのか
- お客様の声と売れ行きが食い違っても、行動経済学の知見を活用すれば、より実際の顧客の行動を予測できるデータが取れること
メルマガ読者のみなさん、こんにちは。
行動経済学者の相良奈美香です。
数年前、マクドナルドが大がかりな調査をしました。それは「どんなメニューを増やしてほしいですか?」というものでした。もっと健康的なものを増やしてほしい。揚げ物は控えたい。そういう声が集まりました。会社はその声に応え、お金をかけてヘルシーなメニューを開発しました。ところが、全く売れなかったんです。
アンケートで聞いた通りに作ったのに、反応が鈍い。こういう経験、ありませんか?
今日は、お客様に聞いても本音が出てこないのはなぜか、というお話です。先日の最強の行動経済学ラボのLIVEセッションでも、このテーマについてじっくり扱いました。
アンケートに答える時、人は考えすぎている
アンケートに答えるときの状況を、思い浮かべてみてください。大抵は、少し時間に余裕がある時です。また、ほとんどの場合、アンケート協力と引き換えにポイントや謝礼をもらうこともあり、「ちゃんと答えなければ」、という気持ちも働きます。
そういえば健康診断が近い。最近カロリーを取りすぎだな。そんな方向に考えが進んでいきます。行動経済学でいう「システム2」、じっくり考える脳が動いている状態です。そういう時には、「マクドナルドでも、よりヘルシーなメニューが良い」となります。
では、実際にマクドナルドに行く時はどうでしょうか?今日は時間があるからマクドナルドへ、とはなりませんよね。もう時間がない、夕食を作る元気もない。じゃあマクドナルドでいいか。しかも、疲れているときは、体と一緒に脳も疲れています。脳が疲れると、手軽なものや脂っこいものについ手が伸びる。夜のコンビニでスイーツを買ってしまうのと同じからくりです。こちらは直感で動く「システム1」の状態です。
聞かれる時と、買う時とでは、働いている脳が違うんですね。マクドナルドの調査は、たしかにうそのない答えを集めていました。しかし、答えた人が注文カウンターの前に立つ頃には、別の脳が判断していたわけです。
聞いて分かるのは「なぜ買ったと思っているか」
人は、自分がなぜ商品やサービスを買ったのかを、大抵の場合、よく分かっていません。自分の好みで選んだつもりでも、実際にはその時の周囲の状況に動かされて意思決定している。これは行動経済学で「選好の構築」と呼ばれる現象で、実験でも何度も確かめられています。
なので、「なぜ買ったのですか」と尋ねて返ってくるのは、本人が「理由だと思っていること」です。例えば、パソコンの購入理由などでは、スペックがとか、メモリーがとか、軽いからなどといった、いかにも合理的な答えを答えがちです。それはそれで事実の一部ですが、購買を決断した理由とは別ものなのです。
では、何を聞けば答えが分かるのか。答えの分からない質問には、大きく四つのタイプがあります。
理由を尋ねると、後付けが返ってくる
一つ目は、購入理由をそのまま尋ねる質問です。「この商品を選んだ理由を教えてください」、あるいは「なぜ弊社をお選びいただいたのですか」。この質問で分かるのは、後付けの説明です。
つまり、本当の理由ではなく、「本人がそうだと思っている理由」となります。例えば、松竹梅で竹を選んだ方が、「お気に入りのネタが全部入っていて、一番手頃な値段だったから」と答える。でも実は、おとり効果が働いていて、「真ん中の選択肢が一番無難だと思ったから」ということなんです。
「今後どうしますか」に、人は答えられない
二つ目は、将来の行動を尋ねる質問です。例えば、「今後こうした商品を使ってみたいと思いますか」や「価格が下がったら購入されますか」。こうした「どう思いますか」という質問も、返ってくるのは結局その方の予測です。
人間は自分の将来の行動を予測するのが、とても苦手です。ダイエット中に友達に誘われ、食べ放題に行ったらサラダから食べますかと聞けば、多くの方がサラダと答えます。実際には、お肉から行くのですが…。予測できるのなら、運動もダイエットも、とうに解決しているはずですよね。
細かく聞くほど、答えは曖昧になる
三つ目は、細部の記憶を頼りにする質問です。例えば、商材が石鹸だとします。その石鹸をいつ買ったか、何日持つか、どのくらいの頻度で買い替えるか。マーケリサーチの現場ではよく聞かれる項目です。ただ、ご自宅の石鹸を前回いつ買われたか、みなさんは覚えていらっしゃいますか?大抵、覚えていないものです。
リサーチでは、聞けば聞くほど精度が上がるように思えますが、細かくしすぎたところから、回答は曖昧になっていきます。
前の設問が、答えの基準を決めている
四つ目は、質問自体は悪くないのに、質問の順番で答えが変わってしまう、というものです。先に触れた刺激が後の判断を無意識に左右する、いわゆる「プライミング効果」が働いています。
例えば、電動歯ブラシについて伺うとしましょう。手磨きの歯ブラシの話をした後だと、回答者はそれを歯ブラシの一種としてジャッジします。ところが最近流行りのマッサージ器の話を挟むと、今度は健康器具の枠で見られてしまう。回答者が何と比べているかは、直前の設問で決まってしまうわけです。
ビジネスにどう効くのか
お客様の声と実際の売れ行きが食い違うことは、商品開発でもマーケティングでも起こります。そこで「お客様の言うことは当てにならない」と結論づけてしまうと、話はそこで止まってしまう。
しかし、行動経済学の知見を活用すると、より実際の顧客の行動を予測できるデータが取れるようになります。
もっと深く学びたい方へ
この記事は、『最強の行動経済学ラボ』のLIVEセッションをベースに書かれています。
ラボで扱うテーマのひとつ「マネジメント×行動経済学」では、3回のシリーズを組んでいます。
Vol.1 頼む・任せる・声をかける
Vol.2 上司としての自分を知る
Vol.3 相手に合わせて伝え方を変える
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https://namikasagara.jp/course/lab/
FAQ
よくある質問
Qアンケートの答えと、実際に買うものが食い違うのはなぜですか?
アンケートに回答するときは、大抵は少し時間に余裕があります。謝礼が出ることもあり、ちゃんと答えなければという気持ちも働きます。じっくり考える「システム2」の状態です。ところが店に行くのは、時間も夕食を作る元気もないときです。体と一緒に脳も疲れ、手軽なものに手が伸びる。これが直感の「システム1」です。聞かれるときと買うときでは、働く脳が違うんですね。
Q「選好の構築」とは何ですか?
人は、自分がなぜ商品やサービスを買ったのかを、大抵の場合よく分かっていません。自分の好みで選んだつもりでも、実際にはその時の周囲の状況に動かされて意思決定している。これが行動経済学で「選好の構築」と呼ばれる現象で、実験でも何度も確かめられています。ですから「なぜ買ったのですか」と尋ねて返ってくるのは、本人が理由だと思っていることです。
Qお客様に聞いても答えの分からない質問には、どんなタイプがありますか?
大きく四つあります。一つ目は購入理由を尋ねる質問で、返ってくるのは後付けの説明です。二つ目は将来の行動を尋ねる質問ですが、人間は自分がこの先どうするかを予測するのがとても苦手です。三つ目は細部の記憶を頼りにするもので、細かくしすぎたところから回答は曖昧になっていきます。四つ目は設問の順番で答えが変わるタイプで、「プライミング効果」が働いています。





