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最強の行動経済学 なぜ、いつも「真ん中」を選んでしまうのか

なぜ、いつも「真ん中」を選んでしまうのか

おとり効果が使われた松竹梅メニューを選ぶ男性客

What you’ll learn

  • おとり効果――誰も選ばないような選択肢(おとり)をあえて1つ加えることで、別の特定の選択肢が相対的に魅力的に見える現象であること
  • 人の脳は物事の価値を絶対的な基準で測るのが得意でなく、つい何かと比べてしまうため、隣にどんな選択肢が並んでいるかで同じ商品の見え方が変わること
  • ウィリアムズ・ソノマの事例――275ドルのホームベーカリーが売れなかったが、より高い415ドルの商品を横に並べたら、もとの275ドルが急に売れ始めたこと
  • 定食のA900円・B1200円・C1500円で多くがBを選ぶこと、松・竹・梅で「竹」を選びがちなこと、映画館のポップコーンでLが割安に見えることなど、身近な相対比較の例
  • Amazonの「他の出品者と比較する」表示や、不動産で見劣りする3つ目の物件を見せる手法など、競合をあえて見せて本命を引き立てる仕掛けがあること

Author

相良奈美香

Behavioral Economist

相良 奈美香

Namika Sagara

行動経済学者・Ph.D.(オレゴン大学)。行動経済学コンサルティング会社代表として、アメリカ・ヨーロッパの約100社にコンサルティングを提供。イェール大学、スタンフォード大学などで講演。著書『行動経済学が最強の学問である』は累計20万部超のベストセラー。

メルマガ読者のみなさん、こんにちは。

行動経済学者の相良奈美香です。

定食屋で松・竹・梅のメニューを前にすると、なんとなく真ん中の「竹」を選んでいませんか。または、映画館でポップコーンを買うとき、一番大きいサイズが急にお得に見えてしまう。こういう経験、心当たりはないでしょうか。

こういうとき私たちは、自分の意思で選んだつもりでいます。しかし実際には、その選択はあらかじめ用意された選択肢の構成に、かなりの部分を左右されています。

今日はこの「おとり効果」のお話です。

「選ばれない選択肢」が、選ばれる選択肢を決めている

おとり効果とは、誰も選ばないような選択肢(おとり)をあえて1つ加えることで、別の特定の選択肢が相対的に魅力的に見える現象です。

私たちの脳は、物事の価値を絶対的な基準で測るのが得意ではありません。「これは高いのか、安いのか」を単体で判断するのは難しく、つい何かと比べてしまいます。だから、隣にどんな選択肢が並んでいるかで、同じ商品の見え方が変わるのです。

高いものを足したら、安いほうが売れた

おとり効果を語るうえで、よく知られた事例があります。アメリカの高級キッチン用品店、ウィリアムズ・ソノマの話です。

この店は275ドルのホームベーカリーを売り出しました。事前のリサーチでは人気だったのに、いざ並べてみると売れ行きは今ひとつ。そこで店は、あえてより高い415ドルのホームベーカリーも横に並べてみました。すると、もとの275ドルが急に売れ始めたのです。

なぜなのか?それは、275ドル単体では、それが高いのか安いのか判断がつきません。ところが隣に415ドルが置かれると、「これと比べれば275ドルは現実的だ」と感じられるようになります。高いほうの商品が、安いほうを引き立てる比較対象になったわけです。

松竹梅にも、ポップコーンにも

同じことは、私たちの身のまわりでも日々起きています。

例えばランチの定食。A定食900円、B定食1200円、C定食1500円と並んでいると、多くの人はB定食を選びます。AとBだけなら1200円は少し高く感じるのに、1500円のCがあるとBが「ちょうどいい」に変わる。日本に古くからある「松・竹・梅」も同じ仕組みで、私たちはなんとなく「竹」を選びがちです。昔から、真ん中を選びやすいという人の性質は知られていたのですね。

映画館のポップコーンも見てみましょう。S・M・Lの3サイズがあり、いちばん大きいLはSの3倍以上の量なのに、価格は3倍まではいきません。たとえばSが350円、Mが400円、Lが420円といった具合です。すると「だったらLがいちばんお得!」と感じてしまいます。ちなみに、私自身は、ここで「お金を払ってまでカロリーをとりすぎていいのかな」と一度立ち止まって、Sを選ぶようにしています。これも、おとり効果を知ってこその選択だと思っています。

競合をあえて見せる、という仕掛け

おとり効果は、見せ方を工夫する形でも使われています。

アマゾンなどの通販サイトで買い物をするとき、「他の出品者と比較する」といった表示を見たことはないでしょうか。そこには、その店の価格や配送と、他社の価格や配送が並んで表示されます。多くの場合、その店のほうが価格でも配送スピードでも優位に見えるようになっています。わざわざ競合を見せるのは、他社を比較対象にすることで「やっぱりここが一番だ」と感じてもらいやすくなるからです。

不動産でも似た場面があります。最初は2つの物件で迷っていたところに、立地や築年数は近いのに家賃が高くて部屋が狭い、いわば見劣りする3つ目の物件を見せられる。すると、それまで迷っていた物件が急によく見えてきます。条件のあまりよくない物件にも、本命を引き立てる役割があるわけです。

自分も「相対比較」で選んでいる

こうして並べてみると、私たちの「自分で選んだ」という感覚が、いかに周りの選択肢に支えられているかがわかります。

おとり効果のおもしろいところは、自分が影響を受けている最中には、まず気づけない点です。竹の定食を選んだときも、Lサイズのポップコーンを手に取ったときも、私たちは「自分がいいと思って選んだ」としか感じていません。

だからこそ、何かを選ぶときに「この選択肢は、隣に何が並んでいるから魅力的に見えているんだろう」と一度考えてみてほしいのです。並んでいる選択肢ごと眺め直すと、自分が本当に欲しいものに気づけることがあります。「選ばれない選択肢」が、自分の選択を方向づけているかもしれない。そう知っているだけで、買い物やビジネスの場面での見え方は変わってきます。

FAQ

よくある質問

Qおとり効果とは何ですか?

誰も選ばないような選択肢(おとり)をあえて1つ加えることで、別の特定の選択肢が相対的に魅力的に見える現象のことです。人の脳は物事の価値を絶対的な基準で測るのが得意ではなく、つい何かと比べてしまうため、隣にどんな選択肢が並んでいるかで同じ商品の見え方が変わります。

Qおとり効果の具体的な事例にはどんなものがありますか?

アメリカの高級キッチン用品店ウィリアムズ・ソノマでは、275ドルのホームベーカリーが売れなかったところ、より高い415ドルの商品を横に並べたら275ドルが急に売れ始めました。身近な例では、A900円・B1200円・C1500円の定食で多くの人がBを選ぶこと、松・竹・梅で「竹」を選びがちなこと、映画館でLサイズのポップコーンが割安に見えることなどがあります。

Qおとり効果に振り回されないためにはどうすればいいですか?

おとり効果のおもしろいところは、自分が影響を受けている最中にはまず気づけない点です。だからこそ、何かを選ぶときに「この選択肢は、隣に何が並んでいるから魅力的に見えているんだろう」と一度考えてみることが大切です。並んでいる選択肢ごと眺め直すと、自分が本当に欲しいものに気づけることがあります。

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