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最強の行動経済学 頼み方を変えたら、上司が味方になった

頼み方を変えたら、上司が味方になった

上司の机に2枚の資料を並べて意見を聞く若手社員と、笑顔で資料を見る女性上司

What you’ll learn

  • 相良奈美香が「自律性バイアス」と呼んでいる、「自分の意志で決めた」と思い込みたい人の性質
  • 子どもに皿洗いを頼むとき、やり方を選んでもらう頼み方の方が快く引き受けてもらえる理由
  • 銀行の口座認証で「お手伝いをさせてください」と言われた顧客の評価と、手間の感じ方を調べた追跡調査の結果
  • 「これをやります」と伝えて上司に支援を渋られた人が、AとBのどちらが良いかを相談する形に切り替えて上司を巻き込めた体験談
  • 依頼や提案がうまく進まなかったとき、振り返るための手がかりとしての自律性バイアスの視点

Author

相良奈美香

Behavioral Economist

相良 奈美香

Namika Sagara

行動経済学者・Ph.D.(オレゴン大学)。行動経済学コンサルティング会社代表として、アメリカ・ヨーロッパの約100社にコンサルティングを提供。イェール大学、スタンフォード大学などで講演。著書『行動経済学が最強の学問である』は累計20万部超のベストセラー。

メルマガ読者のみなさん、こんにちは。

行動経済学者の相良奈美香です。

突然ですが、質問です。

子どもに食事の後の皿洗いをしてほしいとき、次のどちらの頼み方が効果的でしょうか?

1.「食事の後の皿洗いをお願いね」

2.「皿洗いはスポンジでする? それとも水で流してから食洗機に入れる?」

もうおわかりの通り、2番目の方が、相手は快く引き受けてくれます。今日はこの背景にある「自律性バイアス」のお話です。

人は「自分で決めた」と思いたい生き物

私たちの脳は、様々な状況に影響を受けながら判断しています。それでも人は、「そんなはずはない」「自分で主体的に決めたんだ」と思いたい生き物です。この「自分の意志で決めた」と思い込みたい性質を、私は「自律性バイアス(Autonomy Bias)」と呼んでいます。

冒頭の皿洗いに戻りましょう。1の頼み方には、本人の意志が入る余地がありません。受けてもらえたとしても、わだかまりが残ります。一方の2は、皿洗いをすること自体は前提にしつつ、そのやり方を選んでもらう形です。すると「自分で決めた」という感覚が生まれて、前向きに動きやすくなるのです。

頼んでいる内容は、1でも2でも変わりません。違いは、決める余地が相手の側にあるかどうか。ここが自律性バイアスの中心です。

銀行の「お手伝いをさせてください」

この性質は、ビジネスの現場でも取り入れられています。

たとえば、銀行の暗証番号を忘れて、口座認証の手続きが必要になったとします。個人情報の確認や合言葉認証など、作業はやや煩雑です。このとき、次の2つの聞き方をされたら、どちらが好印象でしょうか?

1.「この手順を踏まなければ口座認証はできません」

2.「あなたの口座認証をするためお手伝いをさせてください」

当然、2ですよね。1だと、自分の意志のない「強制」に感じられます。2はあくまで、自分の意志を持って手続きをする形です。

この言い方の違いについては実験も行われています。実験後に顧客へ追跡調査をすると、「お手伝いをさせてください」と言われた方の評価は、82%が高いという結果になりました。手間についても、73%が少ないと感じています。

手続きの中身は、どちらも変わっていません。この効果が理解されているからこそでしょう。最近のアメリカでは必ずと言っていいほど、「お手伝いをさせてください」という言葉がマニュアルに入っていると考えられます。

「これをやります」で渋られた話

上司との関係にも、このバイアスは関係しています。アメリカで行動経済学を学び、現在は日本企業の人事部で働く方が、こんな体験談を教えてくださいました。

やりたいプロジェクトについて、「これをやります」と上司に一方的に伝えたところ、支援を渋られたそうです。部下が勝手に進めているという不安や、自分が頼られていないという虚しさがあったのかもしれません。

そこで彼は、「これをやりたいと思っているんですが、AとBどちらが良いでしょうか」という相談に切り替えました。本質的には、AとBどちらでも良い選択肢を揃えて、上司に選んでもらう。すると上司を巻き込めるようになり、周りからのサポートも受けられるようになったそうです。

上司の中に「自分が決めた」という感覚が生まれると、そのプロジェクトは他人事から自分事に変わるのですね。

受け手の納得は、どこから来るか

商品やサービスの案内、社内の依頼、顧客への手続きの説明。受け手の反応は、内容の丁寧さだけでは決まらないことがあります。実際、銀行の例で変わっていたのは言葉と、そこに残る「自分で決めた」という感覚でした。

人がどこで納得して、どこで身構えるのか。行動経済学は、この納得感の生まれ方についての知見を教えてくれます。依頼や提案がうまく進まなかったとき、振り返るための手がかりとして、自律性バイアスのような視点が役に立ちます。

今度誰かにお願いごとをするとき、ふと思い出してもらえたら嬉しいです。

FAQ

よくある質問

Q自律性バイアスとは何ですか?

私たちの脳は、様々な状況に影響を受けながら判断しています。それでも人は、「自分で主体的に決めたんだ」と思いたい生き物です。この「自分の意志で決めた」と思い込みたい性質を、相良奈美香は「自律性バイアス(Autonomy Bias)」と呼んでいます。中心にあるのは、決める余地が相手の側にあるかどうかです。

Q頼み方を変えると、相手の反応は変わりますか?

子どもに食事の後の皿洗いを頼む場面で考えてみます。「皿洗いをお願いね」という頼み方には、本人の意志が入る余地がありません。受けてもらえたとしても、わだかまりが残ります。皿洗いをすること自体は前提にしつつ、スポンジで洗うか、水で流してから食洗機に入れるかを選んでもらう形もあります。すると「自分で決めた」という感覚が生まれて、前向きに動きやすくなるのです。頼んでいる内容は、どちらの頼み方でも変わりません。

Qビジネスの現場では、自律性バイアスはどのように取り入れられていますか?

例えば銀行の口座認証です。「この手順を踏まなければ口座認証はできません」と言われると、自分の意志のない「強制」に感じられます。「あなたの口座認証をするためお手伝いをさせてください」なら、自分の意志を持って手続きをする形です。この言い方の違いについては実験も行われています。顧客への追跡調査では、「お手伝いをさせてください」と言われた方の評価は82%が高く、手間についても73%が少ないと感じていました。手続きの中身は、どちらも変わっていません。

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