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最強の行動経済学 知らない人の隣で、人は見栄を張る

知らない人の隣で、人は見栄を張る

混み合ったカフェで、周囲の見知らぬ人たちに囲まれながらノートパソコンで作業する日本人のビジネスパーソン

What you’ll learn

  • 他人がただそこにいるだけで行動が変わる「単純存在効果」の中身
  • 周囲の協力者が0人・1人・3人と増えるにつれ、一番高い電池を選んだ人の割合がどう動いたか
  • 影響を受けた本人が、自分の選択をどう説明するか
  • カフェに行くと作業がはかどる理由を、行動経済学から説明する視点
  • 試食会やユーザーテストの結果が、市場での行動とずれてしまう理由

Author

相良奈美香

Behavioral Economist

相良 奈美香

Namika Sagara

行動経済学者・Ph.D.(オレゴン大学)。行動経済学コンサルティング会社代表として、アメリカ・ヨーロッパの約100社にコンサルティングを提供。イェール大学、スタンフォード大学などで講演。著書『行動経済学が最強の学問である』は累計20万部超のベストセラー。

メルマガ読者のみなさん、こんにちは。

行動経済学者の相良奈美香です。

家ではなかなか進まなかった作業が、カフェに行くとはかどる。こんな感覚に、心当たりはないでしょうか。

今日は「単純存在効果」のお話です。

売り場に人がいると、高い電池が選ばれる

人は、周りに他人がいるとき、自分では意識しないまま行動を変えてしまうことがあります。それを示した面白い実験があります。

この実験では、被験者に5ドルを渡して、「お店で電池を買ってきてください。お釣りはすべてあなたのものです」というルールを伝えます。つまり、安い電池を選べば、その分お釣りが多く手元に残る、という設定です。

そして店内には、一般の買い物客を装った実験の協力者がこっそり配置されています。協力者は被験者に話しかけるわけでも、じっと見るわけでもありません。ただ、同じ売り場にいるだけです。

さて、この実験の結果を見てみましょう。

電池コーナーの周りに協力者が誰もいない場合、一番高いメーカーの電池を選んだ人は33%でした。ところが、周囲に協力者が1人いると、42%に増えます。そして、3人いる状況では、半数を超える63%の人が、一番高い電池を選んだのです。

被験者にとって周囲の客は、知り合いでも評価される相手でもない、ただの通りすがりの他人でした。それでも選択はこれだけ変わったのです。

本人は、影響に気づいていない

ただ人がそこにいる。その状況に反応して、私たちは無意識のうちに行動を変えてしまいます。これが「単純存在効果」です。

そして多くの場合、本人はその影響を全く自覚していません。「なぜその電池を選んだのですか?」と聞かれても、「有名メーカーの方が長持ちすると思ったから」といった、もっともらしい「合理的」な理由を答えるのです。

カフェで仕事がはかどる理由

冒頭のカフェの話も、この効果で説明できます。カフェに行くと、参考書を広げる学生やパソコンを開いた人で混み合っていますよね。「家だと集中できないから、カフェに行く」という人は多いのですが、これは行動経済学的にも理にかなっています。

それは、コーヒー代を払ったという「埋没コスト」も働きますが、それ以上に大きいのが、周囲にいる見知らぬ人たちの存在です。隣の席の人は、こちらのことを特に気にしていないかもしれません。それでも「見られているかもしれない」という感覚が知らないうちに生まれて、行動が引き締まるんですね。

単純存在効果をうまく使った例では、集中したい人たちが集まって黙々と作業する「もくもく会」という集まりもあります。周りの人の存在を、集中するための後押しとして活かしているわけです。

私自身にも心当たりがあります。一人で公園を走っているときより、ジムのランニングマシンで走っているときの方が、良い姿勢で走っているような気がするのです。

試食会の結果が、市場で再現されないとき

商品やサービスをつくる側から見ると、単純存在効果は見過ごせません。

例えば、新商品の試食会やユーザーテストです。周りに他の参加者がいる環境では、「ちゃんとした選択をしなきゃ」という気持ちが働きます。その結果、普段なら選ばない高価格帯の商品を選んでしまうかもしれません。

ところが、実際にその商品を買うのは自宅で1人のときだったりします。テストのときと、実際に買うときとで環境が違うと、せっかくの結果が市場での行動を正しく予測できなくなるのです。

手元のデータと、市場の反応が食い違う。その裏には、単純存在効果のような人の性質が隠れていることがあります。「選んだとき、周りに誰がいたのか」。数字だけでは気づけないこうした問いの立て方を、行動経済学は教えてくれるのです。

FAQ

よくある質問

Q単純存在効果とは何ですか?

ただ人がそこにいるという状況に反応して、無意識のうちに行動を変えてしまうことです。相手が知り合いでも、評価してくる相手でもなくても起こります。電池を買う実験では、買い物客を装った協力者が同じ売り場にいるだけで選択が動きました。0人のときに一番高いメーカーを選んだ人は33%、1人いると42%、3人では63%です。

Q自分が単純存在効果の影響を受けていることに、気づけますか?

多くの場合、本人は影響を自覚していません。「なぜその電池を選んだのですか?」と聞かれても、「有名メーカーの方が長持ちすると思ったから」ともっともらしい理由を答えるのです。

Q商品開発の現場では、単純存在効果はどんな形で問題になりますか?

新商品の試食会やユーザーテストで表れます。周りに他の参加者がいると「ちゃんとした選択をしなきゃ」という気持ちが働き、普段なら選ばない高価格帯の商品が選ばれることもあるのです。ところが実際にその商品を買うのは自宅で1人のときだったりします。テストのときと買うときとで環境が違えば、結果は市場での行動を正しく予測できません。

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