What you’ll learn
- アンカリング効果――最初に提示された数字がアンカー(錨)となり、その後の判断を無意識に引っ張る現象。「通常価格9,800円→今だけ4,900円」がお得に見えるのは、最初に目に入った9,800円があるからであること
- ストックホルム商科大学のオスカー・バーグマンのワインの実験――身分証明書番号の下2桁という商品と無関係な数字を提示しただけで、下2桁が大きい人ほど購入希望価格が高くなったこと
- ケルン大学のバーテ・イングリッチらが裁判官を対象に行った実験――細工したサイコロで小さい数字のグループは平均懲役5カ月、大きい数字のグループは平均懲役8カ月と3カ月の差が出たこと
- 裁判官たちは後から「サイコロの数字が判決に影響したか」と聞かれても「あり得ない」と答え、法律のプロが自覚なく影響を受けていたこと。アンカリング効果は当人に見えにくいこと
- Amazonの取り消し線の定価、不動産の内覧、見積もり交渉など、最初に数字を出した側が相手の判断の基準点を設定していること
メルマガ読者のみなさん、こんにちは。
行動経済学コンサルタントの相良奈美香です。
突然ですが、ネットで買い物をしているとき、こんな表示を見かけたら、どう感じますか?
「通常価格 9,800円 → 今だけ4,900円(50%OFF)」
思わず「お得だ」と感じますよね。でも、ちょっと立ち止まって考えてみてください。もしその商品に「4,900円」とだけ書かれていたら、同じように「安い」と感じたでしょうか?おそらく感じません。「お得だ」と思わせているのは、最初に目に入った「9,800円」があったからです。
行動経済学では、これを「アンカリング効果」と呼びます。最初に提示された数字がアンカー(錨)となり、その後の判断を無意識に引っ張る現象です。今日はこの話をしたいと思います。
ワインの値段が「ある番号」で変わる
セールの値引き表示が判断に影響するのは、まだ直感的に理解できます。では、商品の値段と全く無関係な数字だったらどうでしょうか?
ストックホルム商科大学のオスカー・バーグマンが行った実験があります。被験者にワインを見せて「いくらなら買いますか?」と聞くのですが、その前にひとつ質問を挟みます。「このワインをXドルで買いますか?」と。
このXに入るのは、被験者の身分証明書の番号の下2桁です(社会保障番号、日本で言えばマイナンバーのようなもの)。例えば、下2桁が20の人には「20ドルで買いますか?」、95の人には「95ドルで買いますか?」といった感じです。
この下2桁の数字は、ワインの品質とは何の関係もないランダムな数字です。それなのに、下2桁が大きい人ほど、最終的な購入希望価格も高くなったのです。
ここが面白いところなんですね。価格とは何の関連もない番号が、判断に影響を及ぼしているのです。脳は「数字を見た」というだけで、それを基準点にして、物事を判断してしまうのです。
「自分は大丈夫」が一番危ない
この話をすると、「自分は流されない方だ」と思う方もいるかもしれません。実際、私がコンサルティングの場でアンカリング効果の話をすると、経験豊富なビジネスパーソンほどそう言います。
ところが、それを否定する有名な実験があります。
ドイツのケルン大学で、バーテ・イングリッチという研究者たちが裁判官を対象に実験をしています。裁判官たちに連続万引き犯の事件の調書を読んでもらい、その後、全く関係のないアンケートの一部としてサイコロを振ってもらいました。
サイコロには細工がされていて、あるグループは1と2しか出ず、別のグループは3と6しか出ません。出た数字の合計を書き留めてもらったうえで、先ほどの万引き犯に対する刑期を決めてもらいました。
結果は、小さい数字のグループは平均で懲役5カ月、大きい数字のグループは平均で懲役8カ月。違ったのはサイコロを振って出た数字だけです。それで3カ月もの差が開いたのです。
しかも、後から「サイコロの数字が判決に影響しましたか?」と聞くと、大抵の裁判官たちは「そんなことはあり得ない」と答えました。
法律のプロが、仕事として真剣に判断して、それでも影響を受けていた。しかも自覚がなかった。アンカリング効果が手強いのは、まさにこの点なんですね。影響を受けている当人には見えにくいのです。
最初の数字を出した側が、場を動かしている
実験の話から離れて、日常を振り返ってみてください。
Amazonで商品を見るとき、取り消し線の定価と割引価格が並んでいますよね。不動産の内覧で、最初に見せられた物件の価格が、その後の物件の印象を変えている。見積もりの交渉では、相手が最初に提示した金額が最終的な着地点を左右します。
つまり、最初に数字を出した側が、相手の判断の基準点を設定しているのです。
大きな買い物をするとき、交渉の場に出るとき、予算を決めるとき。「今、自分の判断に影響を与えている最初の数字は何だろう」と一瞬でも立ち止まってみる。その意識が、アンカーに引きずられる度合いを変えてくれるはずです。ぜひ、今日から意識してみてくださいね。
FAQ
よくある質問
Qアンカリング効果とは何ですか?
最初に提示された数字がアンカー(錨)となり、その後の判断を無意識に引っ張る現象のことです。「通常価格9,800円→今だけ4,900円」という表示をお得に感じるのは、最初に目に入った9,800円が基準点になっているからです。もし4,900円とだけ書かれていたら、同じように安いとは感じにくいのです。
Q商品と関係のない数字でも、判断に影響するのですか?
影響します。ストックホルム商科大学のオスカー・バーグマンの実験では、ワインの購入希望価格を聞く前に、被験者の身分証明書番号の下2桁の金額で「買いますか?」と質問しました。この下2桁はワインの品質と何の関係もないランダムな数字ですが、下2桁が大きい人ほど最終的な購入希望価格も高くなりました。脳は数字を見ただけで、それを基準点にしてしまうのです。
Q専門家でもアンカリング効果の影響を受けるのですか?
受けます。ケルン大学の研究者たちが裁判官を対象に行った実験では、細工したサイコロを振らせ、出た数字の合計を書き留めてから刑期を決めてもらいました。すると小さい数字のグループは平均懲役5カ月、大きい数字のグループは平均懲役8カ月と、3カ月もの差が出ました。さらに裁判官たちは影響を受けた自覚がなく、当人には見えにくい点がこの効果の手強さです。






