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最強の行動経済学 フレーミング効果とは?「言い方」が判断を変える行動経済学の核心

フレーミング効果とは?「言い方」が判断を変える行動経済学の核心

フレーミング効果

What you’ll learn

  • フレーミング効果とは、同じ内容でも「どう言うか」で判断が大きく変わる現象
  • 「赤身75%」と「脂質25%」は実質的に同じ商品なのに、消費者の評価が異なる
  • カーネマンとトヴェルスキーの「架空の病気」実験では、表現の違いだけで選択の傾向が大きく変わった
  • ビジネスの現場でも、メッセージの伝え方が意思決定の結果を左右している
  • 老後の資金計画のような重要な判断にもフレーミング効果は影響しうる

Author

相良奈美香

Behavioral Economist

相良 奈美香

Namika Sagara

行動経済学者・Ph.D.(オレゴン大学)。行動経済学コンサルティング会社代表として、アメリカ・ヨーロッパの約100社にコンサルティングを提供。イェール大学、スタンフォード大学などで講演。著書『行動経済学が最強の学問である』は累計19万部超のベストセラー。

「フレーミング効果は、マーケティングから人事まであらゆるコミュニケーションに関わる理論です。『何を言うか』だけでなく『どう言うか』が結果を決める。そのメカニズムを正しく理解してほしいと思います。」

スーパーで牛ひき肉を選ぶとき、「赤身75%」と表示されたパッケージと「脂質25%」と表示されたパッケージ。あなたならどちらを手に取りますか?

実質的には同じ商品です。にもかかわらず、多くの人は「赤身75%」を選びます。同じ事実でも表現の枠組み(フレーム)が変わるだけで判断が変わってしまう。これが「フレーミング効果」です。

拙著『行動経済学が最強の学問である』では、非合理な意思決定を「認知のクセ」「状況」「感情」の3つに分類しました。フレーミング効果は「状況」に属する概念です。情報そのものではなく、情報の「提示方法」が判断を左右します。

この記事では、牛ひき肉の実験からビジネスの600万ドルの意思決定、さらには老後資金の設計にまで影響するフレーミング効果の全体像を解説します。

フレーミング効果とは – 「赤身75%」と「脂質25%」で評価が変わる理由

フレーミング効果(Framing Effect)とは、同一の内容であっても何を強調するかによって受け手の意思決定が変わる現象です。1981年に心理学者のカーネマンとトヴェルスキーが発表した有名な研究で広く知られるようになりました。名前の通り、「フレーム(枠組み)」のかけ方によって情報の捉え方が異なることを指します。

よく知られた属性フレーミングの例が、牛ひき肉の実験です。被験者に「赤身75%」と表示されたパッケージと「脂質25%」と表示されたパッケージを見せ、おいしさや品質などの印象を評価してもらいました。

結果、「赤身75%」の方が明らかに好意的な評価を受けました。実質的には同じ商品を、異なる表現で示しただけです。

この種の研究では、実際に食べる前の段階ほど、表示の仕方が評価に与える影響が大きいことが示されています。逆に、実体験が増えると、表示だけの影響は弱まりやすくなります。

この実験ではさらに興味深い検証が行われています。被験者を3つのパターンに分けました。パターン1は「パッケージを見ただけで試食しない」場合。パターン2は「パッケージを見てから試食する」場合。パターン3は「試食してからパッケージを見る」場合です。

3つを比べると、パターン1の「見ただけ」が最も属性フレーミングの影響が大きく、「赤身75%」への評価が最も高くなりました。パターン2の「見てから試食」は影響がやや小さくなり、パターン3の「試食してから見る」ではほとんど差がなくなったのです。

つまり、実体験が先に来ると表示の力は弱まります。しかし表示が先に来ると、その印象が味の評価にまで影響を与える。情報の順序が判断の枠組みを形成しているのです。

とくに、実物を試せないオンライン購入では、表示の仕方が第一印象を左右しやすいと考えられます。ECサイトの商品説明やレビュー表示の設計にも、この知見は直接関わってくるでしょう。

ポジティブフレームとネガティブフレーム – 架空の病気実験

フレーミング効果には、ポジティブなものとネガティブなものがあります。この違いを鮮やかに示したのが、カーネマンとトヴェルスキー(1981)の有名な実験です。

学生たちに「ある病気が流行し、600人が命の危険にさらされている」と伝えます。そのうえで2つの対策を提示しました。ただし、表現を変えた2つのバージョンを別々のグループに見せたのです。

ポジティブフレーム(表現1)では、対策Aを「確実に200人が助かる」と伝え、対策Bを「3分の1の確率で600人全員が助かり、3分の2の確率で誰も助からない」と伝えました。

ネガティブフレーム(表現2)では、対策Aを「確実に400人が死亡する」と伝え、対策Bを「3分の1の確率で誰も死亡せず、3分の2の確率で600人全員が死亡する」と伝えました。

内容は全く同じです。しかし結果は大きく異なりました。

ポジティブな表現1では、72%の学生が確実性のある対策Aを選びました。人は「助かる」と示されると確実な選択を好みやすく、「失う」「死亡する」と示されると、損失を避けようとしてリスクを取りやすくなります。

実際にネガティブな表現2では、78%がリスクのある対策Bを選択しています。この背景には、プロスペクト理論の記事で解説した損失回避の傾向があります。

同じ内容でも、ポジティブフレームかネガティブフレームかによって、選択の傾向は大きく変わりえます。これがフレーミング効果の核心です。

ビジネスでのフレーミング効果 – 600万ドルの意思決定

この実験はビジネスの世界にも応用されています。今度は「ある重要な部品の納入業者が値上げをしたために、企業の資金が600万ドル危険にさらされた」という設定です。

ポジティブフレームのグループには「対策Aを取ると確実に200万ドルの節約になる」と伝えました。ネガティブフレームのグループには「対策Aを取ると400万ドルの損失が確定する」と伝えたのです。

結果は「架空の病気」の実験と同様でした。ポジティブな「節約」の表現では75%が対策Aを選択。ネガティブな「損失」の表現では、対策Aを選んだのは20%にとどまりました。

この結果は、ビジネスの現場に重要な示唆を与えます。同じ提案でも「コスト削減」として伝えるか「損失の防止」として伝えるかで、意思決定者の反応が変わるということです。

行動経済学×マーケティングの記事で紹介した通り、メッセージの設計そのものが行動経済学の応用事例だと言えるでしょう。損失回避バイアスの記事で解説した「損失への感度の高さ」が、フレーミング効果の背景にあります。

ここでポイントとなるのは、ネガティブフレーミングが必ずしも「悪い」ということではない点です。たとえば、注意喚起や行動変容を促したい場面では損失フレームが効きやすくなります。安心感や継続を後押ししたい場面では、利得フレームが機能しやすいでしょう。

実際の仕事の場面でも、この傾向は明確に現れます。営業や開発の議論において、利益に焦点を向けているチームはリスクを避ける傾向が強まります。しかし損失の可能性に目を向けると、リスクを取りやすくなるのです。そのバランスを取るためにも、議論の中で意識的にフレームを切り替えてみることが有効です。

事実をどう表現するかという設計思想が問われているのです。

人生設計にも影響するフレーミング – コロンビア×UCLAの寿命研究

フレーミング効果はビジネスの場面だけではありません。私たち自身の人生設計にも深く関わっています。

私がデューク大学でポスドクの頃、コロンビア大学やカリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)との共同研究を行いました。テーマはフレーミング効果、特に老後資金管理に深く関わる「寿命」の見積もりです。

退職後、収入がなくなった状態で「毎月どれだけ使っていいか」は「あと何年、貯蓄が必要か」と深く関わります。つまり、自分がどのくらい生きるかの見積もりが、資金計画の前提になるのです。

この研究では、寿命について2つのフレーミングで質問しました。フレーミング1は「あなたが55歳まで生きる確率は何%だと思いますか?」。フレーミング2は「あなたが55歳までに亡くなってしまう確率は何%だと思いますか?」。

つまり聞いているのは同じことです。

この結果を基に自己申告の平均寿命を数値化しました。「生きる確率」で質問した場合の平均寿命は、「亡くなる確率」で質問した場合よりも約10年長かったのです。「生きる」というフレームでは長生きする原因に、「亡くなる」というフレームでは早く亡くなる原因に、それぞれ注意が向くためです。10年もの差が「聞き方」だけで生じるという事実は、老後資金の見積もりに直結する重大なバイアスだと言えます。

拙著では、こうしたバイアスを減らすために「両方のフレーミングを考慮すること」を推奨しています。「確実に200万ドルの節約、つまりは400万ドルの損失」。このように両面を意識することで、バランスの取れた意思決定に近づけるのです。

金融商品の説明、保険の提案、退職後のライフプラン。日常的に接する「数字を含むメッセージ」の裏には、必ずフレームがかかっています。それを意識するだけでも、判断の出発点が変わってくるでしょう。

まとめ – フレーミング効果を知ることで何が変わるのか

フレーミング効果の理解は、2つの面で判断を改善する手がかりになります。

消費者としては、日常で目にするメッセージの「枠の張り方」に気づくことが第一歩です。「赤身75%」と「脂質25%」が同じ意味だと認識する。その意識があると、無意識の反応に気づきやすくなります。

ビジネスの視点では、伝え方の設計がいかに重要かが明確になるでしょう。マーケティング戦略から、営業、社内コミュニケーションまで。あらゆる場面でフレーミングは機能しています。

提案書を書くとき、人事評価のフィードバックを伝えるとき、プレスリリースの文面を決めるとき。フレーミングの選択は、受け手の反応を左右する設計判断です。

重要な判断を下すときは「この情報はどう枠づけされているのか」と立ち止まる。その習慣が、フレーミング効果と上手に付き合う出発点になるでしょう。

FAQ

よくある質問

Qフレーミング効果は回避できますか?

完全には回避できません。人間の脳はフレームなしに情報を受け取ることができないためです。ただし「この情報はどの枠で提示されているか」を意識するメタ認知を高めることで、自動的な反応に気づきやすくなります。

Q利得フレームと損失フレーム、どちらが効果的ですか?

一般には、安心感を持って選んでほしい場面では利得フレームが効きやすい傾向があります。現状維持のコストを意識させて行動を促したい場面では、損失フレームが有効です。ただし、相手や文脈によって最適な伝え方は変わります。

Q日常生活でフレーミング効果に気をつけるべき場面は?

食品のパッケージ表示、保険や金融商品の説明、ニュースの見出しなど、数字や評価が含まれる情報には注意が必要です。フレーミング効果の注意点として、同じ情報を「反対の角度」からも捉え直す習慣が効果的でしょう。

Qビジネスの提案でフレーミングを使い分けるコツは?

提案の目的だけでなく、相手が不安を感じているのか、安心を求めているのかでも適したフレームは変わります。まずは相手にどの判断軸を意識してほしいのかを明確にしてください。それに合わせて表現を設計するのが重要です。

Qフレーミング効果とプロスペクト理論はどう関係していますか?

プロスペクト理論は「人は損失に対して利得よりも敏感に反応する」という法則です。フレーミング効果はその法則を応用し、同じ内容を利得と損失どちらで伝えるかによって判断が変わることを示しています。両者は密接に結びついており、フレーミング効果の背景にプロスペクト理論があると考えると理解しやすいでしょう。

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