What you’ll learn
- 他者の行動を「やる気の問題」で片づけず、動きやすい状況を整えるという行動経済学の考え方
- 他人の行動を変えるトリガー・障壁・報酬の3要素と、それぞれの整え方
- 楽観バイアスで後回しになる相手に、早めに動くきっかけを事前設定するトリガーの作り方
- やり遂げたらすぐ褒めることが、費用対効果の高い報酬(ポジティブアフェクト)になる理由
- 合理的なメリットだけでは人は動かず、感情が先で理屈は後から効くという行動の順番
メルマガ読者のみなさん、こんにちは。
行動経済学者の相良奈美香です。
皆さん、こういう経験、ありませんか?
子どもがなかなか宿題に取りかからない。部下が資料をいつも期限ギリギリに出してくる。お客さんに一度は買ってもらえても、使い続けてはもらえない。相手にその気がないわけではなさそうなのに、思うように動いてくれない。
今日は、「自分」ではなく「他者」を動かすときの行動経済学のお話です。
「やる気がないから」で片づけない
部下や同僚、そして家族が動いてくれないと、私たちはつい「やる気がないんじゃないか」と考えてしまいます。日本には「叱る」という発想もありますが、叱って終わりにすると、結局は根性や意思の強さに頼ることになり、それではいつまで経っても解決しません。
そもそも行動経済学は、やりたい気持ちはあるのに、なぜかできない人を後押しする学問です。(やりたくない人に、無理やりさせるためのものではありません!)。だとすれば、相手の「気合い」を疑うより、動きやすくなる状況をどう整えるかを考えた方が早いのです。
そこで使えるのが、トリガー・障壁・報酬という3つの要素です。前回のLIVEセッションのサマリーメルマガでは自分の行動を変える話をしましたが、この3つは、他の人の行動にもそのまま当てはまります。ひとつずつ見ていきましょう。
トリガー:きっかけがないだけかもしれない
たとえば、資料をいつも期日通りに出してくれない部下がいるとします。やる気の問題に見えて、実は「きっかけ」がなく、いつの間にか期日が来てしまったということがよくあります。
人には楽観バイアスがあって、「前日にやれば間に合う」と思ってしまう。ところが前日に限って別の急ぎの案件が入ったり、体調を崩したりする。だから、早めに取り掛かるきっかけを事前に設定しておく。動いてほしい行動が、「今この瞬間」に動くトリガーを作っておくのです。
障壁:「面倒くさい」を先回りでなくす
次が障壁です。いざやろうとしたときに、ちょっとした手間が後回しのきっかけになります。
やり方がよく分からない、手元にひな形がない、必要な情報が揃っていない。このような小さな障壁でも、後回しが得意な「非合理な人間」には十分に理由となります。やろうとした人の前に立ちはだかる小さな「面倒」を、先回りして取り除いておく。すると、動き出そうと思った時のハードルがぐんと下がります。
報酬:人は「楽しい」がないと続かない
そして報酬です。実はこの3つのなかで、報酬が一番大きな要素なのです。
日本は色んなことが「やって当たり前」という空気が強くて、行動の後に報酬が用意されていないことがほとんどです。でも人は、面白い・うれしいと感じないことは続けられません。何かをやり遂げたときに、すぐ褒める。これがいいのは、褒めるのにお金がかからないからです。5秒でできて、離れた相手にもできます。費用対効果で言えば、褒めることほど割のいい報酬はありません。
褒めるというのは、行動経済学でいう「ポジティブアフェクト」、つまり前向きな感情を相手の中に生み出す行為です。この前向きな感情が、次の行動を後押ししてくれます。
「合理的なメリット」だけでは動かない
報酬を考えるとき、多くの人は「合理的なメリット」を並べがちです。実はここに、見落としやすい落とし穴があります。
健康診断を受ければ早めに異変に気づける。運動すれば代謝がよくなる。英語を学べば仕事の幅が広がる。理屈としては、どれも正しい。けれど人は、必ずしも合理的に動く生き物ではありませんよね。
英語学習アプリのDuolingoを思い浮かべてください。合理的に考えれば、メリットは「英語が上達すること」です。でも、多くの人が毎日続けてしまう理由は、そこではありません。ポイントが貯まる、キャラクターが喜んでくれる、一つクリアしたときの気持ち良さよさ。どれも英語の上達には関係のない、非合理なメリットです。
人は感情で動いて、理屈で正当化します。先に動くのは、いつも感情の方です。合理的な説明は、相手が「やろう」と心を決めたあとで、「やっぱりこれでよかった」と納得するために効いてきます。合理と非合理、その両方がそろって、人ははじめて動くのです。
まず、相手の感情を動かすところから
人を動かしたいとき、私たちはどうしても正論から入りがちです。しかし、大抵のことは、「頭でわかっていてもできない」ことが多いのですよね。そんな時は、「感情」に働きかけ、モチベーションを上げ、トリガーを設定し、「いつ、どのタイミングで行動するか」を設計します。そして、先回りして「障壁」を下げることで、「やりたかったのに、できなかった」という状況を回避できます。
身のまわりで「なかなか動いてくれないな」と感じる相手を、一人思い浮かべてみてください。正論で説得する前に、トリガー・障壁・報酬の3つから眺めてみると、意外と、うまく行動を促せるかもしれません。
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FAQ
よくある質問
Q相手が動いてくれないのは、やる気がないからではないのですか?
やる気の問題に見えても、実はきっかけがないだけということがよくあります。行動経済学は、やりたい気持ちはあるのにできない人を後押しする学問です。相手の気合いを疑うより、トリガー・障壁・報酬の3つから動きやすい状況を整える方が早く解決に近づけます。
Qトリガー・障壁・報酬のうち、一番大事なのはどれですか?
3つのなかで報酬が一番大きな要素です。なかでも、やり遂げたときにすぐ褒めることは費用対効果の高い報酬になります。お金がかからず、5秒ででき、離れた相手にもできるからです。褒めることは、行動経済学でいうポジティブアフェクト、つまり前向きな感情を相手の中に生み出します。この前向きな感情が、次の行動を後押しします。
Q合理的なメリットを丁寧に説明すれば、人は動いてくれますか?
合理的なメリットだけでは、人は必ずしも動きません。英語学習アプリのDuolingoを続けてしまう理由は、英語の上達ではありません。ポイントが貯まる、キャラクターが喜ぶ、クリアしたときの気持ち良さ。こうした非合理なメリットが、続ける動機になっています。人は感情で動いて理屈で正当化します。先に動くのは、いつも感情の方です。






