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最強の行動経済学 「PayPayで使いすぎてしまう」の正体

「PayPayで使いすぎてしまう」の正体

カフェのカウンターでスマートフォンを使い、非接触決済端末で支払いをする女性。キャッシュレス・エフェクトを表すイメージ

What you’ll learn

  • キャッシュレス決済で使いすぎてしまう理由と、決済の「透明性」の違い
  • 支払いの痛みを和らげる「Pain of Paying」の仕組み
  • メニューの「$」表示の有無で消費額が変わった実験の結果
  • アマゾンのワンクリックやポイント、カジノのコインに共通する仕組み
  • 月末の明細で「使いすぎたかも」と感じたときに意識したいこと

Author

相良奈美香

Behavioral Economist

相良 奈美香

Namika Sagara

行動経済学者・Ph.D.(オレゴン大学)。行動経済学コンサルティング会社代表として、アメリカ・ヨーロッパの約100社にコンサルティングを提供。イェール大学、スタンフォード大学などで講演。著書『行動経済学が最強の学問である』は累計19万部超のベストセラー。

メルマガ読者のみなさん、こんにちは。

行動経済学者の相良奈美香です。

先日、あるクライアントとの雑談でこんな話が出ました。

「PayPayで払うようにしてから、月末に明細を見るたびに『あれ、こんなに使ってたんだ』って驚くんですよね」。

この感覚、みなさんにも心当たりがないでしょうか。

今日は「キャッシュレス・エフェクト」のお話です。

なぜ財布よりスマホのほうがお金を使ってしまうのか

行動経済学では、現金よりカードやスマホ決済の方がお金を使いすぎてしまうことがわかっています。

理由はシンプルで、決済の「透明性」が違うから。現金で支払うときは、お札や小銭を数えて手渡しするので、「どれだけ使ったか」という感覚がしっかり残ります。カードやスマホ決済では、機械にタッチしたりスワイプしたりするだけで決済が終わるので、この感覚が薄くなります。

この「使った感覚の薄さ」が、行動経済学でいう「Pain of Paying」、つまり支払いに伴う心理的な痛みを弱めてしまいます。痛みが弱いと、ネガティブな感情も生まれにくい。だから、ついつい使ってしまうのです。

日本でもキャッシュレス化はかなり進んでいますね。消費者庁の発表によれば、普及率は2019年12月の54.2%から2022年2月には64.0%にまで増えました。アメリカに住んでいる私の感覚で言えば、こちらはほとんどの人が現金を使わず、カードかスマホアプリで支払う習慣が完全に定着しています。

「$20.00」より「20.00」のほうが売れる

ここで一つ、面白い実験を紹介します。

レストランで2通りのメニューを用意しました。

・Aには「○○○ $20.00」と、各料理に「$+金額」を表示

・Bには「○○○ 20.00」と、各料理に「金額のみ」を表示

違うのは「$」の表示があるかないかだけ。メニューのデザインや料理の種類など、その他の条件はすべて同じでした。

結果、Bのメニューを受け取ったお客さんのほうが大幅に消費額が増えたのです。

「$」という表示がないことで、頭では金額とわかっていても、「お金を払う」という行動が心理的に響かなくなる。それくらい、私たちの判断は「お金が動いている感覚」に左右されているということです。

日本でも外資系ホテルや高級レストランでは、「2000円」とせず「2000」と算用数字のみのメニューを置いているところがあります。記号一つで、お客さんの注文の仕方が変わってしまう。キャッシュレス・エフェクトは、こんな細部にまで及んでいるのです。

アマゾンのワンクリックが危ない理由

私たちの日常で、もっとも「透明性が低い」決済の代表がアマゾンのワンクリック注文ではないでしょうか。

カードを取り出す動作すらない。画面をワンクリックしたら、もう買い物は終わっている。買いたい商品に対するポジティブな感情に導かれるまま、買い物が完了します。

しかも、お金を使った感覚が薄いので、「無駄遣いしてしまった」というネガティブな感情も生まれにくい。だから、次の買い物にもためらいなく進めてしまう…。

PayPayやSuica、クレジットカード、サブスク、ネットショッピング。どれも便利で、安全性にも優れたサービスです。私自身もアメリカで暮らしている関係上、カード決済なしには生活が成り立ちません。

ただ、便利さの裏で、自分のお金の感覚が薄くなっているかもしれない。そのことは、頭の片隅に置いておいて損はないと思っています。

ポイントもスタンプカードもカジノのコインも

キャッシュレス・エフェクトの効果は、カードと現金の話だけにとどまりません。

例えば、アプリ決済やeコマースのポイント制度。「いつでも返品OK」というサイトでは、お金ではなくポイントで返金されます。「ポイント=お金」という感覚は、現金で返してもらうときよりも明らかに薄いので、貯まったポイントを気軽に使ってしまうのです。

カジノやゲームセンターで現金をコインに替えて遊ぶのも、まったく同じ理由ですね。お金の姿が現金からコインに変わると、「使ってしまった」という痛みも一緒に弱まります。

私たちの周りには、こうしてお金を「溶かす」仕組みがあちこちに潜んでいるわけです。

まずは「気づくこと」から

行動経済学の知見はたくさんありますが、キャッシュレス・エフェクトはその中でも特に身近な話だと思います。

完全に現金生活に戻すのは現実的ではありません。私もそうですし、おそらく多くの方もそうでしょう。

ただ、月末に明細を見て「使いすぎたかも」と感じたとき、その背景にPain of Payingの弱まりがあると気づけるかどうか。気づけたら、お金との向き合い方は少しずつ変わっていくはずです。

FAQ

よくある質問

Qなぜ現金よりカードやスマホ決済の方がお金を使いすぎてしまうのですか?

決済の「透明性」が違うためです。現金はお札や小銭を数えて手渡すので「どれだけ使ったか」という感覚が残ります。カードやスマホ決済は機械にタッチするだけで終わるため、この感覚が薄くなります。行動経済学でいう「Pain of Paying」、つまり支払いに伴う心理的な痛みが弱まり、ついつい使ってしまうのです。

Qメニューに「$」を表示するかどうかで、本当に消費額が変わるのですか?

変わります。レストランで二種類のメニューを用意した実験があります。「○○○ $20.00」と表示したメニューAと、「○○○ 20.00」と金額のみを表示したメニューB。ほかの条件はすべて同じにそろえました。結果、Bを受け取ったお客さんの方が大幅に消費額が増えました。記号一つで「お金が動いている感覚」が変わるためです。

Qキャッシュレス・エフェクトはカードと現金だけの話ですか?

それだけにとどまりません。ポイント制度では「ポイント=お金」という感覚が現金より薄いため、貯まったポイントを気軽に使ってしまいます。カジノやゲームセンターで現金をコインに替えて遊ぶのも同じ理由です。お金の姿が変わると、「使ってしまった」という痛みも一緒に弱まります。

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