お申し込み
最強の行動経済学 使っていないのになぜ解約できないのか?

使っていないのになぜ解約できないのか?

コワーキングスペースでノートパソコンとスマートフォンを前に考え込むビジネスパーソン。損失回避で解約や撤退の判断に迷う心理を表すイメージ

What you’ll learn

  • 「損失回避(Loss Aversion)」とは何か——プロスペクト理論の中核概念
  • 「失う痛み」は「得る喜び」の約2倍。得と損で反応が非対称になる理由
  • 使っていないサブスクを解約できないのは、なぜか
  • 解約をためらう心理に重なる「保有効果」の働き
  • 撤退できないプロジェクトにも潜む、同じ心理のしくみ

Author

相良奈美香

Behavioral Economist

相良 奈美香

Namika Sagara

行動経済学者・Ph.D.(オレゴン大学)。行動経済学コンサルティング会社代表として、アメリカ・ヨーロッパの約100社にコンサルティングを提供。イェール大学、スタンフォード大学などで講演。著書『行動経済学が最強の学問である』は累計19万部超のベストセラー。

メルマガ読者のみなさん、こんにちは。行動経済学者の相良奈美香です。

先日、あるクライアントとの雑談でこんな話が出ました。「最近、スマホを整理していて気づいたんですけど、半年くらい開いていない動画配信サービスがあって。月1,500円なんですが、解約しようとすると、なんとなく手が止まるんですよね」。

この感覚、みなさんにも心当たりがないでしょうか。使っていないのに、やめられない。合理的に考えれば、払い続けている方が損失のはずなのに…。

今日のメルマガは、この「やめられなさ」の背景にある、行動経済学の中核的な概念「損失回避」のお話です。

「失う痛み」は「得る喜び」の約2倍

損失回避(Loss Aversion)は、ダニエル・カーネマンとトヴェルスキーが1979年に発表したプロスペクト理論の中核をなす概念です。

一言で言えば、人間にとって「何かを失う痛み」は「同じものを得る喜び」の約2倍の強さを持つということ。同じ確率・同じ金額でも、得と損に対する反応は非対称だということです。

面白いのは、この非対称性が無意識のうちに働くことです。論理的には、1万円を得る喜びと1万円を失う痛みは釣り合っているはず。でも、人間の脳はそうできていません。進化の歴史の中で、「失うこと」に敏感な個体の方が生存上有利だった。そう考えると、この非対称性にも納得がいきます。

生存本能としては理にかなっていますが、問題は、この本能が現代のビジネスや日常の判断までも歪めてしまうことにあるんです。

解約できないサブスクの正体

冒頭の話に戻ってみましょう。

合理的に見れば、使っていないサービスに月1,500円を払い続けることこそが損失です。でも脳は違う処理をしています。「解約する=使える権利を失う」と認識してしまうんですね。

使っていないのだから価値が見出される可能性は少ない。それでも「失う」という感覚は強く働きます。つまり、毎月出ていくお金よりも、「サービスへのアクセス権を手放すこと」の方が心理的に重く感じられる。その結果、解約ボタンを押す手が止まるわけです。

ここにはもうひとつ、「保有効果」というバイアスも重なっています。保有効果とは、自分が持っているものの価値を、持っていないときよりも高く評価する傾向のこと。クローゼットに何年も着ていない服があっても捨てられない経験、多くの方にあるのではないでしょうか。あれと同じ心理が、今回のサブスクに対しても働いています。

「損失回避」と「保有効果」。この二つが重なると、合理的な判断はかなり難しくなります。

撤退できないプロジェクトに潜む同じ心理

損失回避の影響は、日常の小さな判断だけにとどまりません。企業の戦略的な意思決定にも深く関わっています。

私がコンサルティングの現場でよく目にするのが、撤退判断の場面です。

数年かけて投じてきた予算・人員・時間。結果が出ないまま続いているプロジェクト。合理的に考えれば、リターンの見込みがないなら早期撤退が正解です。それなのに、なかなかやめられない。

ここで働いているのが、まさに損失回避なんですね。リスクを取って投じた予算や人員は、経営者の頭の中ではすでに「自分たちのもの」として認識されています。撤退するということは、それらを「失う」ことを意味する。その感覚が、冷静な判断を妨げているのです。

気づけるかどうかが分かれ目

損失回避が手強いのは、自分が影響を受けていることに、本人がなかなか気づけないことです。

解約を先延ばしにしているとき、脳の中では「この権利を失いたくない」という信号が働いています。プロジェクトをやめられないとき、頭の中では「ここまで積み上げたものを失う」という感覚が動いています。でも多くの場合、当人は「もう少し様子を見よう」とか「慎重に判断しよう」と感じているだけで、損失回避が作動しているという自覚はありません。

自分が今、何を「失う」と感じているのか。その痛みは、本当にそこまで大きいのか。一度立ち止まってみる。ここに気づけるかどうかが、損失回避と上手に付き合う第一歩になります。

FAQ

よくある質問

Q損失回避とは何ですか?

損失回避(Loss Aversion)は、ダニエル・カーネマンとトヴェルスキーが1979年に発表したプロスペクト理論の中核をなす概念です。人間にとって「何かを失う痛み」は「同じものを得る喜び」の約2倍の強さを持ちます。同じ確率・同じ金額でも、得と損に対する反応は非対称になります。

Q使っていないサブスクをなかなか解約できないのはなぜですか?

合理的に見れば、使っていないサービスにお金を払い続けることこそが損失です。それでも脳は「解約する=使える権利を失う」と認識してしまいます。毎月出ていくお金よりも、アクセス権を手放すことの方が心理的に重く感じられ、解約ボタンを押す手が止まるのです。

Q損失回避には「保有効果」も関係しているのですか?

はい。保有効果とは、自分が持っているものの価値を、持っていないときよりも高く評価する傾向のことです。サブスクの解約をためらう場面では、この保有効果が損失回避と重なって働きます。二つが重なると、合理的な判断はかなり難しくなります。

Online Course

行動経済学を体系的に学ぶ

行動経済学の第一人者 相良奈美香が直接指導する、ビジネスの現場で即活用できる実践力を身につけるためのオンライン講座をご用意しています。

講座一覧を見る →
Follow Us

SNS

@NamikaSagara

行動経済学の最新情報や日々の気づきをXで発信しています。

Xをフォローする
相良奈美香 公式チャンネル

行動経済学をわかりやすく解説する動画を配信しています。

YouTubeチャンネルをみる