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最強の行動経済学 早すぎる仕事は、安く見られる

早すぎる仕事は、安く見られる

打ち合わせの席で、テーブル越しにクライアントへ資料のフォルダを手渡す日本人のビジネスパーソン

What you’ll learn

  • かかった時間で価値を測ってしまう「デュレーション・ヒューリスティック」の中身
  • 手際よく鍵を開けてもらったときより、時間がかかったときの方が価値を感じるという実験の結果
  • 早く提出した提案に「料金を下げてほしい」とクレームが入った、相良奈美香自身の経験
  • 結論から先に伝えるのをやめ、思考の過程から話すようにした理由
  • 部下の相談への即答が、真剣さの不足と受け取られてしまう理由

Author

相良奈美香

Behavioral Economist

相良 奈美香

Namika Sagara

行動経済学者・Ph.D.(オレゴン大学)。行動経済学コンサルティング会社代表として、アメリカ・ヨーロッパの約100社にコンサルティングを提供。イェール大学、スタンフォード大学などで講演。著書『行動経済学が最強の学問である』は累計20万部超のベストセラー。

メルマガ読者のみなさん、こんにちは。

行動経済学者の相良奈美香です。

家の鍵を部屋に置いたまま、オートロックのドアを閉めてしまった。家族は外出中で、どうやっても家に入れない。仕方なく専門の業者に来てもらうと、ものの3分で解錠できて、料金は2万円でした。このとき、あなたはどう感じますか?

「たった3分で2万円も取られてしまった」と思う方が大半でしょう。今日はこの感覚の背景にある、「デュレーション・ヒューリスティック」のお話です。

3分で2万円は、高いのか?

合理的に考えると、少し不思議です。時間が短かろうが長かろうが、「鍵を開けてもらう」というサービス自体は変わりません。それでも、かかった時間で評価が変わってしまうんです。

行動経済学では、これを「デュレーション・ヒューリスティック」と呼びます。デュレーションは「期間」や「時間」という意味。ヒューリスティックは、直感的にパッと判断してしまう働きのことです。つまり、サービスの内容よりも、かかった時間で評価してしまう認知のクセを指します。

私が大学院時代にお世話になっていたトロント大学のディリップ・ソマンらの実験でも、同じ結果が出ています。手際よく鍵を開けてもらったときより、時間がかかったときの方が、価値があると感じるというものです。効率で言えば、短い時間で開けてもらえた方がいいはずですよね。それでも人の評価は逆に動いてしまう、なんとも非合理な結果です。

早く出した提案に、クレームが来た

サービスを提供する側に回ると、この認知のクセはより切実なものになります。

私がコンサルティングを始めた頃の話。大抵のプロジェクトには、何百時間という膨大な労力をかけます。ただ稀に、行動経済学の定番の考え方で迅速にクリアできる案件もあり、そういうときはすぐにクライアントにレポートを提出していました。

すると、あるクライアントからクレームが入りました。「短い時間で簡単にできるような提案だったら、もっと料金を下げてくれないか」。たしかに、提出までは短時間でした。ただその提案は、大学院や起業でかけた膨大な時間と労力の蓄積から出てきたものです。鍵開けの技術者のスキルと同じで、その蓄積やそれまでの苦労は、外からはなかなか見えないものなのです。

結論から話すのをやめた

この経験から、私は伝え方を変えました。先日も、顧客企業のCEOから突然電話があり、「前に話した商品開発の件で新しい問題が出てきた。今すぐ意見を聴かせてほしい」と言われました。

仕事を始めて間もない頃なら、とにかく早くと、イエスかノーの答えから切り出していたところです。今は、「以前お話を伺ってから、いろいろと考えていました。その結果……」と、結論に至るまでの思考の過程から話すようにしています。熟考を重ねた意見なのだと、相手にきちんと伝わる形にするためです。

これは、社内でも起きます。部下からメールで相談を受けて、経験のある自分にはすぐ答えが浮かぶ。1分でも早い方がいいだろうと短く即答すると、相手には「真剣に取り合ってくれていないのでは」と受け取られることがあるのです。

速さの価値は、伝わりにくい

腕が良い人ほど、仕事は速くなります。ところが、受け手の側には、かかった時間で価値を測る認知のクセがある。真面目に効率を磨いた結果、かえって「簡単そう」と受け取られてしまうことは、多くのサービスで起こりえます。

見積もりを即答したとき。急ぎの依頼を数分で片付けたとき。あるいは、部下の相談にその場で答える。良い仕事をしたはずなのに、どこか軽く受け止められる…。そんな取りこぼしは、多くの現場で起きています。そして、それが仕事や部下の評価にもつながってしまったりするのです。

FAQ

よくある質問

Qデュレーション・ヒューリスティックとは何ですか?

サービスの内容よりも、かかった時間で価値を評価してしまう認知のクセです。デュレーションは「期間」や「時間」、ヒューリスティックは直感的にパッと判断してしまう働きを指します。3分で鍵を開けてもらって2万円と言われると高く感じるのは、この働きによるものです。

Q仕事が速いと、かえって評価が下がることがあるのですか?

あります。腕が良い人ほど仕事は速くなりますが、受け手の側には、かかった時間で価値を測る認知のクセがあります。見積もりを即答したとき。急ぎの依頼を数分で片付けたとき。あるいは、部下の相談にその場で答える。良い仕事をしたはずなのに、どこか軽く受け止められる。そうした受け取られ方が、仕事や部下の評価にもつながってしまうのです。

Q速さが軽く見られないためには、どう伝えればよいですか?

結論だけを短く返さず、そこに至るまでの思考の過程から話す方法があります。相良奈美香自身も顧客企業のCEOから急ぎの相談を受けたときには、「以前お話を伺ってから、いろいろと考えていました」と切り出します。熟考を重ねた意見なのだと、相手にきちんと伝わる形にするためです。

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