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最強の行動経済学 理想化される「明日の自分」

理想化される「明日の自分」

スーパーで買い物カゴを持ち商品を手に取る買い物客

What you’ll learn

  • 感情移入ギャップの意味と、冷静なときの自分と熱くなっているときの自分に生まれるズレ
  • 人は今の感情を基準に将来の行動を予測するため、状態が変わったときの自分を正しく想像できないこと
  • カーネギーメロン大学のジョージ・ローウェンシュタインが名付けた「感情移入ギャップ(Hot-Cold Empathy Gap)」という概念
  • 100万件以上のネットの食料品注文の調査で、数日後の配達を指定した人は低カロリー、翌日配達を指定した人は高カロリーの商品を頼んでいた結果
  • 冷静なときに注文を済ませておく環境設計で、熱くなった自分の出番をなくすという工夫

Author

相良奈美香

Behavioral Economist

相良 奈美香

Namika Sagara

行動経済学者・Ph.D.(オレゴン大学)。行動経済学コンサルティング会社代表として、アメリカ・ヨーロッパの約100社にコンサルティングを提供。イェール大学、スタンフォード大学などで講演。著書『行動経済学が最強の学問である』は累計20万部超のベストセラー。

メルマガ読者のみなさん、こんにちは。

行動経済学者の相良奈美香です。

お腹が空いた状態でスーパーに行って、買うつもりのなかったものまでカゴに入れてしまった…こんな経験ありませんか?

今日は、冷静なときの自分と熱くなっているときの自分のズレ、——「感情移入ギャップ」のお話です。

理想化される「未来の自分」

「ダイエット中だから、ケーキの誘惑には絶対負けない!」

冷静な状態のときには、自信を持ってそう言えますよね。ところが、お腹が空いて目の前にケーキがある状態では、予想とはまるで違う行動をとってしまいます。

なぜなら、人間は、今の自分の感情を基準にして、将来の行動を予測するからです。そのため、自分の精神状態や、心身状態が変わったときの自分を正しく想像できません。つまり、満腹のときには、空腹のときの自分の食欲を、つい軽く見積もってしまうのです。

「未来の自分」を理想化してしまうこの状態には、名前がついています。

カーネギーメロン大学の心理学者ジョージ・ローウェンシュタインが名付けた「感情移入ギャップ(Hot-Cold Empathy Gap)」です。冷静な状態(Cold)は、精神的にも肉体的にも落ち着いています。しかし、熱くなっている状態(Hot)は、疲労でイライラしていたり、空腹で渇望感があったりします。

どちらも同じ自分なのに、冷静な「今の自分」は、熱くなっている「未来の自分」をリアルに考えられないのです。

100万件の注文データからわかったこと

100万件以上のネットでの食料品の注文を調べたもので、面白い研究があります。配達日を数日後に指定して注文した人は、野菜を中心に比較的カロリーが低い商品を頼んでいました。

一方、翌日配達を指定して注文した人は、健康的とは言えない高カロリーの商品を頼んでいたのです。

数日後の食材を考えているときは、冷静です。でも「未来の自分」は理想化されていて、「頼むべきもの」をカートに入れます。それが直前の注文になると、お腹が空いて熱くなってしまっているということです。注文するときの感情の状態が、カートの中身を分けているのです。

なぜ、計画は崩れてしまうのか

冷静なときに立てた計画は、熱くなったときの自分を織り込んでいません。これが、計画倒れや、ストレスがかかったときの衝動的な行動の原因になります。

疲れてイライラしているときに、つい送ってしまった強い言葉のメール。セール会場やライブの高揚感のまま、予定になかった高額商品を買ってしまったり…

少し考えてみると、思い当たる場面が、いくつか浮かんできませんか?

そういう時は、自分の判断が、そのときの「心身の状態」の温度に引っ張られているんですね。

ちなみにアメリカでは、朝のうちに夕食を買って、職場の冷蔵庫に入れておく人もいます。冷静な朝の判断を、夜までそのまま持ち越す工夫です。

私自身も、似たようなことをしています。普段からネットスーパーなどの宅配をよく利用していますが、そうすると、お店で「つい」お菓子やカロリーの高いものを買ってしまうことがありません。

これは、私がよく提唱している「環境設計」です。つまり、冷静なときに注文を済ませておけば、お腹が空いた「熱い」自分の出番がなくなるのです。配達アプリを使うには、数百円の手数料はかかりますが、誘惑の場所に自分を置かないで済むことは、私にとっては、なかなか良い投資だと思っています。

つくり手の側から見ると

この概念は、商品やサービスをつくる側にとっても重要です。

例えば、顧客がその商品を選ぶのは、「冷静」なときでしょうか。それとも、「熱くなっている」ときでしょうか。

自社の顧客は、どの場面で冷静に比較し、どの場面で熱くなって決めているのか。売れ方のデータを読み解くときにも、ご案内のタイミングを考えるときにも、この視点は検討できる打ち手を増やしてくれます。

顧客は、いつでも合理的に比較検討して意思決定しているとは限らないんですね。

そこまで含めて考えられるのが、行動経済学を学ぶ面白さです。

FAQ

よくある質問

Q感情移入ギャップとは何ですか?

冷静なときの自分と、空腹や疲労で熱くなっているときの自分との間に生まれるズレのことです。カーネギーメロン大学のジョージ・ローウェンシュタインが「Hot-Cold Empathy Gap」と名付けました。落ち着いた状態がCold、疲労や空腹で渇望感がある状態がHotにあたります。人は今の感情を基準に将来の行動を予測するため、状態が変わったときの自分をうまく想像できません。

Q感情移入ギャップを示す研究にはどんなものがありますか?

100万件以上のネットの食料品注文を調べた研究があります。配達日を数日後に指定した人は、野菜を中心に比較的カロリーの低い商品を頼んでいました。翌日配達を指定した人が頼んでいたのは、健康的とは言えない高カロリーの商品でした。注文するときの感情の状態が、カートの中身を分けていたのです。

Q計画倒れを防ぐにはどうすればよいですか?

熱くなった自分の出番をなくす環境設計が助けになります。アメリカでは、朝のうちに夕食を買って職場の冷蔵庫に入れておく人もいます。冷静な朝の判断を、夜までそのまま持ち越す工夫です。ネットスーパーの宅配を使えば、店頭でつい買ってしまう場面に自分を置かずに済みます。

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