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最強の行動経済学 大きなお願いの前に置く、小さなひと言

大きなお願いの前に置く、小さなひと言

オフィスで席に着いた同僚に声をかける場面

What you’ll learn

  • フット・イン・ザ・ドアの意味と、小さなお願いから段階的に進めると承諾されやすくなること
  • 安全運転のポスターをいきなり頼むと17%、小さなステップを挟むと76%が受け入れ、約5倍に増えた実験
  • 小さなお願いを聞くと、頼まれごとを聞くいい人という自分のイメージが芽生える仕組み
  • そのイメージと一貫していたい気持ちが働いて、次のお願いも引き受けてしまうこと
  • 仕事でも家庭でも、小さく始めると相手が動きやすくなり、その先のお願いも進みやすくなること

Author

相良奈美香

Behavioral Economist

相良 奈美香

Namika Sagara

行動経済学者・Ph.D.(オレゴン大学)。行動経済学コンサルティング会社代表として、アメリカ・ヨーロッパの約100社にコンサルティングを提供。イェール大学、スタンフォード大学などで講演。著書『行動経済学が最強の学問である』は累計20万部超のベストセラー。

メルマガ読者のみなさん、こんにちは。

行動経済学者の相良奈美香です。

いきなり大きなお願いをされると、つい身構えてしまいまよね。でも、まず小さなお願いから入ると、いつの間にかその後の大きなお願いまで引き受けていた…。営業を受けたときも、知らないうちに最初のひと押しに乗せられていた…。そんな経験はないでしょうか。

今日は「フット・イン・ザ・ドア」のお話です。

まず小さなお願いから始めて、段階的に大きなお願いへ進めると、承諾されやすくなる。そんな現象を指します。

大きなポスターを頼んだ実験

行動経済学者のジョナサン・フリードマンが、こんな実験をしています。

ある住宅街で、安全運転キャンペーンのために「外から見える大きなポスターを、窓に貼ってください」と住人にお願いしました。いきなり頼まれて貼ってくれたのは、17%の人だけでした。家の窓に大きなポスターですから、断られるのも分かります。

ところがフリードマンは、別のグループには違う進め方をしました。まず小さなステッカーを配って、「窓や車に貼ってください」とお願いします。安全運転を思い出してもらうための、ささやかなお願いです。

その2週間後、同じ住人に「安全運転の大きなポスターを、窓に貼ってください」と頼みます。最初のステッカーの、倍のサイズです。すると、76%もの人が受け入れてくれました。

小さなステッカーをひとつはさんだことで、大きなポスターを貼ってくれた人は約5倍に増えたのです。

「いい人」でいたい気持ちが後押しする

なぜ、こんなことが起きるのでしょうか。

最初に小さなお願いを聞くと、人には「自分は交通安全を意識して、頼まれごとを聞いてあげるいい人だ」という気持ちが芽生えます。そして2週間後にもう少し大きなお願いをされると、その気持ちと一貫していたくて、つい引き受けてしまう。ここで断ると、さっき芽生えた「いい人」という自分のイメージと矛盾してしまうからです。

最初に少しだけ協力したという感覚も、ここに重なります。せっかく一歩踏み出したのだから、という気持ちですね。こうした心理が積み重なって、協力が自然と続いていきます。

日常にもあふれている

この現象、特別な場面の話ではありません。

仕事でも、「この企画、全部お願いできますか」といきなり頼むより、「5分だけ相談に乗ってもらえますか」「100ページの資料のうち、10枚だけ見てもらえますか」と小さく始めるほうが、引き受けてもらいやすい。やりとりを重ねるうちに「自分も関わっている」という感覚が生まれて、その先のお願いもスムーズに進んでいきます。

家庭でも同じです。「後片付けを全部お願い」より、「食洗機にお皿を入れるところだけ手伝って」から始める。子どもにも「宿題を全部やりなさい」ではなく、「今日の宿題、何があるか一緒に確認しよう」と声をかける。小さな一歩なら、相手も動きやすいのです。

学んでおくと、ビジネスで人の動きが読めるようになる

フット・イン・ザ・ドアは、むやみにお願いを通すための「技」ではありません。相手が無理なく一歩を踏み出せるように、お願いの順番を整えてあげる。段階を踏むと、人は自然と協力しやすくなる。そういった、ごくごく自然で健全な現象です。

こうした行動経済学の知見は、ビジネスの現場でも効いてきます。なぜ最初の小さな一歩でその後の承諾率が上がるのか。なぜ世界中の企業が、入会やお試し体験の入り口づくりに力を入れているのか。その背景にある人の心理まで説明できるようになると、自社の顧客やチームがなぜそう動くのか、理由から捉えられるようになります。

行動経済学を一つひとつ学んでいくと、人がなぜそう動くのかを言葉で説明できる場面が増えていきます。同じ状況でも、次の一手を根拠を持って選べるようになる。それが、行動経済学を学ぶ面白さでもあります。

FAQ

よくある質問

Qフット・イン・ザ・ドアとは何ですか?

まず小さなお願いから始めて、段階的に大きなお願いへ進めると、承諾されやすくなる現象です。営業を受けている場面でも、最初のひと押しが後の承諾につながります。

Qどんな実験で確かめられているのですか?

行動経済学者のジョナサン・フリードマンの実験があります。住宅街でいきなり大きな安全運転のポスターを窓に貼るよう頼むと、応じたのは17%でした。先に小さなステッカーを配って貼ってもらい、2週間後に同じ依頼をすると、76%が受け入れました。貼ってくれた人は約5倍に増えています。

Qなぜ小さなお願いをはさむと引き受けてもらいやすくなるのですか?

最初の小さなお願いを聞いた時点で、頼まれごとを聞いてあげるいい人だ、という気持ちが芽生えるからです。その後で大きなお願いをされると、その気持ちと一貫していたくて、つい引き受けてしまいます。ここで断ると、芽生えたばかりの自分のイメージと矛盾してしまうためです。せっかく一歩踏み出したのだから、という感覚も重なります。

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