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最強の行動経済学 捨てられないモノが増えていく

捨てられないモノが増えていく

本棚の前で古い本を手に取り、手放すか迷うように見入る女性。保有効果(手放せないモノへの愛着)を表すイメージ

What you’ll learn

  • 保有効果とは何か——自分が所有するものに市場価値以上の高い金額を感じてしまう現象
  • カーネマンらの「マグカップ実験」(1990年)で、売り手の希望額が中央値7.12ドル、買い手の支払額が2.87ドルと約2倍以上に開いた理由
  • 保有効果を生む二つの心理——「損失回避」と「心理的所有感」の違い
  • タッチパネルで買うと商品により高い金額を払う傾向が出る、心理的所有感の働き
  • 数十億円の会社売却から、使わないのに手放せないモノまで、保有効果が判断を曇らせる場面と、気づくことの意味

Author

相良奈美香

Behavioral Economist

相良 奈美香

Namika Sagara

行動経済学者・Ph.D.(オレゴン大学)。行動経済学コンサルティング会社代表として、アメリカ・ヨーロッパの約100社にコンサルティングを提供。イェール大学、スタンフォード大学などで講演。著書『行動経済学が最強の学問である』は累計19万部超のベストセラー。

メルマガ読者のみなさん、こんにちは。

行動経済学者の相良奈美香です。

本棚に並んだまま、もう何年も読み返していない本。引き出しの奥で眠っている古い手帳や、もう使わないケーブル類。いつか使うかもしれないと思って取ってある、もらいものの食器。使っていないのに、なぜか手放せないモノが、家にいくつもある。あなたの家にも、そのようなモノがありませんか?

今日はこの正体、「保有効果」のお話です。

「自分のもの」になると、価値が跳ね上がる

保有効果とは、自分が所有しているものに、市場価値以上の高い金額を感じてしまう現象です。一度自分のものになると、同じ商品でも価値の感じ方が変わります。

これを世に広めたのが、ダニエル・カーネマンらが1990年に行った「マグカップ実験」です。被験者は3つのグループに分けられました。マグカップを与えられた売り手には「手放すなら最低いくら欲しいか」、マグカップを持たない買い手には「買うなら最高いくら払うか」を尋ねます。

結果、売り手が手放すために求めた金額は中央値で7.12ドル。一方、買い手が払ってもいいとした金額は2.87ドルでした。同じマグカップなのに、いったん手にしただけで価値の感じ方が変わる。手放すために求める額が、買うために払う額のおよそ2倍以上に跳ね上がったのです。

この差を生んでいるのは、二つの心理メカニズムです。一つ目は「損失回避」。一度自分のものになると、それを手放すことが「失う」体験になり、得るときよりも重く感じられる傾向です。そしてもうひとつが、次にご紹介する「心理的所有感」です。

もうひとつのメカニズム「心理的所有感」

もうひとつのメカニズムが、「心理的所有感」です。実際にはまだ買っていなくても、「自分のものだ」と感じる心理状態を指します。

たとえばネットショッピングで、商品をカートに入れただけで、なんとなくもうすでに自分のものになったと感じる。そんな感覚です。また、心理的所有感が芽生えると、愛着が生まれ、結果として「手放したくない」「もっと価値がある」と感じるようになります。

面白い研究があります。スマホやタブレットの画面で買い物をすると、通常のパソコンよりも、商品により高い金額を払う傾向が出るのです。指で画面上の商品に触れることで、「自分のもの」という感覚が高まり、価値の評価が引き上げられる。タッチパネルが普及した今、ついカートに入れすぎてしまうという方は、この影響を受けている可能性があります。

数十億円の会社売却を止めた、保有効果

保有効果が働く場面は、日常の買い物だけではありません。会社を売るような大きな判断にも影響します。

私の友人で、JPモルガンの行動科学部門長を務めるジェフ・クライスラーが、あるクライアントの遺産相続を担当したときの話です。故人となったクライアントが残したのは、資産数十億円相当の会社でした。

子どもたちは事業に全く関わっておらず、業界の知識もないため、経営は難しい状況。それでも「父親が苦労して創業し、経営してきた会社」を相続してしまった以上、どうしても手放せない。そんなこう着状態に陥ったのです。

そこでジェフが保有効果について説明したところ、子どもたちは自分のバイアスを理解し、不合理さに気づきました。結果として、会社は適切な相手に売却されることになりました。

数十億円規模の判断ですら、「自分のもの」という感覚が、合理的な選択を止めてしまう。バイアスの存在を知っているかどうかが、こうした場面での結論を大きく左右します。

保有効果は、企業の商品設計にも組み込まれています。たとえば無料のお試しやサンプル提供。サブスクリプションの初期体験も同じ仕組みです。

気づけるかどうかが分かれ目

保有効果が手強いのは、自分が影響を受けていることに、なかなか気づけないことです。

使わなくなったモノを手放せないとき、頭の中では「まだ使うかもしれない」「思い出があるから」と一見合理的な理由が頭に思い浮かび、保有効果が働いている自覚はなかなかありません。事業の撤退判断、長く使ってきた取引先との契約見直し、相続の場面。「自分のもの」という感覚が結論を曇らせていないか、一度立ち止まってみる価値があるかもしれませんね。

FAQ

よくある質問

Q保有効果とは何ですか?

自分が所有しているものに、市場価値以上の高い金額を感じてしまう現象です。一度自分のものになると、同じ商品でも価値の感じ方が変わります。ダニエル・カーネマンらが1990年に行った「マグカップ実験」では、売り手が手放すために求めた金額は中央値で7.12ドルでした。一方、買い手が払ってもいいとした金額は2.87ドルで、求める額が払う額のおよそ2倍以上に跳ね上がりました。

Q保有効果はなぜ起きるのですか?

二つの心理メカニズムが働いています。一つは「損失回避」で、一度自分のものになると手放すことが「失う」体験になり、得るときよりも重く感じられます。もう一つは「心理的所有感」で、実際にはまだ買っていなくても「自分のものだ」と感じる心理状態です。心理的所有感が芽生えると愛着が生まれ、「手放したくない」「もっと価値がある」と感じるようになります。

Qスマホで買い物をすると、つい買いすぎてしまうのはなぜですか?

心理的所有感が関係しています。スマホやタブレットの画面で買い物をすると、パソコンよりも商品に高い金額を払う傾向が出ます。指で画面上の商品に触れることで「自分のもの」という感覚が高まり、価値の評価が引き上げられるためです。タッチパネルが普及した今、ついカートに入れすぎてしまう方は、この影響を受けている可能性があります。

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