What you’ll learn
- 機会コストとは、ある選択をしたことで本来なら得られたはずの別の選択の価値のこと
- 人間の判断は「目の前にあるもの」に強く引っ張られ、機会コストが視野から抜け落ちやすいこと
- 300円を節約するための30分は、1時間600円のバイトと同じだと気づいた実体験
- 「続ける」「やめない」を選んだときにも、手放しているチャンスという機会コストが発生していること
- SNSや「一応」出席する会議など、日常の小さな時間配分も立派な意思決定として扱えること
メルマガ読者のみなさん、こんにちは。
行動経済学者の相良奈美香です。
何かを「やる」と決めるとき、私たちは目の前の選択肢を比較し、判断しています。AにするかBにするか、続けるかやめるか。ところが判断の質を左右しているのは、実は検討にすら上がらなかった方の選択肢だったりします。
今日はそんな「機会コスト」のお話です。
「選ばなかった選択肢」の値段
機会コストとは、ある選択をしたことで、本来なら得られたはずの別の選択の価値のこと。お金を払って何かを買うときに目に見える「コスト」と並んで、判断の度に発生している、もうひとつの種類のコストのことです。
ただ、こちらのコストには、なかなか私たちの注意が行きません。「選ばなかった方」となるだけではなく、そもそも選択肢として思い浮かばないこともあります。だからこそ、多くの場面で、判断材料から抜け落ちます。
行動経済学では、人間の判断はもともと「目の前にあるもの」に強く引っ張られることがわかっています。財布から出ていく現金は意識できる。一方で、別の使い方をしていれば得られたはずの何かは、意識には入ってきません。この非対称性が、機会コストの軽視につながるのです。
300円を節約するために、30分を使いますか?
以前、自分自身に起きたこんな出来事があります。
先日、コンビニでスマホの充電ケーブルを買おうとして、値段を見てびっくりしました。種類が一つしかなくて、1,200円もする。以前、少し離れたディスカウントストアで、たしか900円ぐらいで買ったことを思い出しました。「その店まで行くか」とケーブルを商品棚に戻しかけたとき、頭の中で計算が走ります。その店までは歩いて片道10分。広い店内で商品を探してレジに並ぶことも考えると、往復30分近くかかる。
結果、私はコンビニで1,200円のケーブルを買いました。
日本人は節約が好きです。私自身も日本で育っていますから、骨身に染みている部分があります。でも、あるとき気づきました。300円を節約するために30分を使うということは、1時間600円のバイトをするのと同じだということに…。このバイト、やりますか?もちろんノーです。私ならその時間を仕事や研究に投資します。
ここで効いているのが、今回の機会コストの視点です。「300円を払うか、払わないか」という見え方をしている間は、安いほうが合理的に見えます。ところが、「払わない」を選ぶための30分には、別の使い方をしていれば手に入ったはずの価値が含まれている。それを差し引いて初めて、本当の損得が見えてくるんですね。
「やめないこと」のコスト
機会コストは、新しく何かを始めるときだけの話ではありません。今やっていることを「続ける」と決めた瞬間にも発生しています。
アメリカでは終身雇用が主流ではないので、転職はよくあることです。それでも本人にとっては大きな意思決定ですから、転職に関しての相談を受けることがあります。そこでは多くの方が、これまで頑張ってきた時間を考えると、なかなか踏み切れずに悩まれます。この「これまで費やしてきたものが惜しくて手放せない」という心理には、「サンクコスト効果」も深く関わっています。
そういうときに私からお伝えするのが、機会コストの話です。「転職することによって失うこと」を挙げていくと、多くのことが並びます。一方で、「転職しないことによって、どういうチャンスを失っているか」も並べてみる。それらを同じ天秤に両方を乗せると、見え方がだいぶ変わってきます。
同じ視点は、日々の仕事のなかでも使えます。プロジェクトを続けるか中断するか、ある業務に時間を割くか別の業務に回すか。「続ける」を選んだ際には、その時間とリソースで他にできたことは、結果的に手放されています。
判断の場面で「やめないこと」「変えないこと」が安全に見えるのは、機会コストが視野に入っていないからかもしれません。
一日の中の小さな機会コスト
機会コストは、大きな決断のときだけ意識すればいい話ではありません。むしろ、毎日の小さな選択の積み重ねの方が、長い目で見ると影響が大きい。
例えば、何の気なしに開いたSNSで30分過ごす。気が乗らない会議に「一応」出席する。期待していなかった資料を最後まで読む。一つひとつは小さな時間ですが、「その時間を別のことに使っていたら何ができたか」を考えてみると、視点が変わってくるのではないでしょうか?
行動経済学では、こうした日常の時間配分も、立派な意思決定として扱います。「払う・払わない」と同じレベルで、「使う・使わない」を判断しているからです。
機会コストという言葉を頭の片隅に置いておくと、目の前の選択肢の向こう側が、少し見えるようになりますよ。
FAQ
よくある質問
Q機会コストとは何ですか?
ある選択をしたことで、本来なら得られたはずの別の選択の価値のことです。お金を払うときの目に見えるコストと並んで、判断の度に発生しているもうひとつのコストを指します。
Qなぜ機会コストは見落とされやすいのですか?
人間の判断はもともと「目の前にあるもの」に強く引っ張られるためです。財布から出ていく現金は意識できますが、別の使い方で得られたはずの価値は意識に入ってこず、判断材料から抜け落ちます。
Q機会コストは大きな決断のときだけ考えればよいですか?
いいえ。SNSで30分過ごす、気が乗らない会議に出席するなど、毎日の小さな時間配分の積み重ねの方が、長い目で見ると影響が大きいこともあります。






