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最強の行動経済学 卵の100円とセーターの500円

卵の100円とセーターの500円

スーパーで卵の値札を見比べる女性。金額の感じ方が変わるゼロに近い数値への敏感さのイメージ

What you’ll learn

  • 「ゼロに近い数値への敏感さ」の意味と、金額の感じ方が一貫しなくなる理由
  • 卵の100円のために10分歩き、セーターの500円差はあっさり手放してしまう例
  • 合理的に考えれば400円得をしていたはずという、2つの選択の差引
  • 日本・アメリカ・インド・インドネシアの4カ国に共通して見られた研究結果
  • サブスクの「月あたり100円お得」など、売る側がこのクセを踏まえた見せ方をしていること

Author

相良奈美香

Behavioral Economist

相良 奈美香

Namika Sagara

行動経済学者・Ph.D.(オレゴン大学)。行動経済学コンサルティング会社代表として、アメリカ・ヨーロッパの約100社にコンサルティングを提供。イェール大学、スタンフォード大学などで講演。著書『行動経済学が最強の学問である』は累計20万部超のベストセラー。

メルマガ読者のみなさん、こんにちは。

行動経済学者の相良奈美香です。

スーパーで卵が100円安いと知ると、わざわざ遠回りしてでもそちらで買う。でも数万円の買い物になると、500円くらいの差は「まあ、どうせだから」と気にしなくなる。こういう経験、ありませんか?

今日は、お金の感覚に潜む不思議なクセ、「ゼロに近い数値への敏感さ」のお話です。

100円には敏感、500円には鈍感

例えば、こんな場面を考えてみてください。

近所のコンビニで卵が1パック350円。でも10分歩いた先のスーパーでは250円で売っている。「100円も安いなら、行こうかな」。多くの人がそう考えます。

ところがその帰り道、セレクトショップで気に入ったセーターを見つける。9,000円のものと、9,500円のもの。さんざん迷った末に、「500円差ならどうせだから」と9,500円の方を選んでしまう。

ちょっとここで、この2つの選択を振り返ってみましょう。卵で100円を節約するために10分歩いた人が、セーターでは500円をあっさり手放している。合理的に考えると、コンビニで100円高い卵を買い、セーターを9,000円で済ませた方が、トータルでは400円も得をしていたのです。

同じ「数百円の差」なのに、なぜ私たちはこんなにも一貫しない判断をしてしまうのでしょうか。

「ゼロからの近さ」で感じ方が変わる

そのカギは、その金額が「ゼロにどれだけ近いか」です。

私たちは普段の生活で、ゼロに近い金額、例えば数十円、数百円に頻繁に接しています。だから、その範囲の違いは意識しなくても敏感に感じ取れる。100円と200円の差は、肌感覚ではっきり分かるわけです。

一方、9,000円と9,500円のように、ゼロから遠い金額を目にする機会は相対的に少ない。そのため、同じ500円の差でも、無意識のレベルではぼんやりとしか感じられないのです。

金額の「絶対的な大きさ」ではなく、「ゼロからの近さ」で直感的に判断してしまう。これが「ゼロに近い数値への敏感さ」と呼ばれるクセです。

ちなみに、この感覚は私自身、研究テーマのひとつとして調べてきました。当時プリンストン大学の博士課程にいたクリス・オリヴォラ氏との共同研究で、こうした数字の感じ方の偏りを調べたのです。すると日本・アメリカ・インド・インドネシアの4カ国に共通して、同じ傾向が見られました。国や文化を越えて、人間に広く備わっている感覚なのです。

「節約したつもり」の落とし穴

このクセのややこしいところは、本人は「賢く節約している」と思い込んでいる点にあります。

しかし、先ほどの卵の例をもう一度見てみましょう。100円を浮かせるために往復で歩き、レジにも並んで、合わせて30分かかったとします。時間あたりに直すと、200円の節約のために1時間。「時給200円のアルバイト」をしているようなものです。

その一方で、ゼロから遠い金額の中に紛れた数百円・数千円の差は、気にしない。小さな数字には全力で向き合い、大きな数字の中の同じ差はスルーする。これでは、節約しているつもりが、かえって損をしていることになりかねません。

大きな買い物のときにこそ、この認知のクセに気づけると、節約がより「合理的」にできます。

企業はこのクセを知っている

この認知のクセは、商品やサービスを売る側も、よく理解しています。

例えば、サブスクの料金プラン。月額980円と1,080円の100円差には、私たちは敏感に反応します。だから企業は、月額の価格を前面に出したうえで、年額プランの割引を「月あたり100円お得」といった見せ方にすることがあります。割引額そのものを「年間1,200円お得」と示すより、ゼロに近い数字に落とし込んだ方が、その「お得」を強く感じてもらいやすいからです。

法人向けの営業でも、似たケースがあります。100万円の見積もりに「あと10万円」を足すと難色を示されますが、1,000万円規模の案件では、同じ10万円の差はほとんど議論にならない。金額の絶対値は同じでも、全体に対する「ゼロからの近さ」で受け止め方がまるで変わるのです。

知っていれば消費者としてのツールにもなり、企業側としては設計にも活かせる。同じ知識が、消費者としての自分と、ビジネスをする自分の両方の意思決定の質を上げてくれます。これが行動経済学の面白いところだなと思います。

FAQ

よくある質問

Q「ゼロに近い数値への敏感さ」とは何ですか?

金額の「絶対的な大きさ」ではなく、「ゼロからの近さ」で直感的に判断してしまうクセのことです。数十円や数百円といったゼロに近い金額の違いには敏感に反応する一方で、ゼロから遠い金額の中にある同じ差は、ぼんやりとしか感じられません。

Qなぜ100円の差には敏感で、500円の差には鈍感になるのですか?

私たちは普段の生活で、数十円や数百円といったゼロに近い金額に頻繁に接しています。だから、その範囲の違いは意識しなくても敏感に感じ取れます。9,000円と9,500円のようにゼロから遠い金額を目にする機会は、相対的に少ない。そのため無意識のレベルでは、同じ500円の差もぼんやりとしか感じられないのです。

Qこの感覚は、日本人に特有のものですか?

国や文化を越えて、人間に広く備わっている感覚です。当時プリンストン大学の博士課程にいたクリス・オリヴォラ氏との共同研究では、日本・アメリカ・インド・インドネシアの4カ国に共通して、同じ傾向が見られました。

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