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最強の行動経済学 ハンドソープに仕込まれた行動経済学

ハンドソープに仕込まれた行動経済学

行動経済学が隠れた2本のハンドソープを見比べる女性




What you’ll learn

  • アメリカのスーパーで売られている2つのハンドソープ(約7ドルのMrs. Meyer’sと約4ドルのSproutsのプライベートブランド)が、それぞれ行動経済学の知見をボトルに織り込んでいること
  • 「概念メタファー」――人は背の高いものに力や権威・高級感を、背の低いものに安心感や親しみやすさを感じるため、価格帯に合わせてボトルの高さとロゴ位置が設計されていること
  • 「認知的流暢性」――人はスッと理解できるものに好感を持つため、見た瞬間にブランドの立ち位置が伝わるデザインになっていること
  • ボトルが透明か不透明かの違い――透明だと中身の残量が見えて買い足し行動が無意識に促され、不透明だと消耗ではなく香りや気分に注意が向くよう設計されていること
  • 人は成分の差以上に「使ったときの感情」で商品の価値を判断していること、そして企業が選ばれる理由を性能や価格だと考えがちで感情を見落としやすいこと

Author

相良奈美香

Behavioral Economist

相良 奈美香

Namika Sagara

行動経済学者・Ph.D.(オレゴン大学)。行動経済学コンサルティング会社代表として、アメリカ・ヨーロッパの約100社にコンサルティングを提供。イェール大学、スタンフォード大学などで講演。著書『行動経済学が最強の学問である』は累計19万部超のベストセラー。

メルマガ読者のみなさん、こんにちは。行動経済学コンサルタントの相良奈美香です。

今日は、アメリカのスーパーでよく見かけるハンドソープを例に、「人はどれだけ感情で選んでいるか」という話をしたいと思います。

左は、アメリカで人気の Mrs. Meyer’s Clean Day のハンドソープ(約7ドル)。右は、健康志向のスーパー Sprouts Farmers Market のプライベートブランド(約4ドル)。

価格もポジションも違うこの2つ、実はどちらも行動経済学の知見を、かなり巧妙にボトルに織り込んでいます。

ポイントは「ボトルの形」と「中身が見えるかどうか」。

行動経済学には「概念メタファー」という研究があります。

人は直感的に、背の高いものには力や権威・高級感を感じ、背の低いものには安心感や親しみやすさを感じる、というものです。

2商品とも、これをそのままボトルデザインに落とし込んでいます。

価格が高く、「プチ高級」な立ち位置のMrs. Meyer’sは、あえて背の高いボトルで、ロゴも上部に配置。これにより、消費者に「ちゃんとしたもの」「良いもの」という印象を与えています。

一方、手頃さが売りのSproutsの方は、背を低めにして、ロゴも中央寄り。親しみやすく、日常使いの消耗品としての安心感を前面に出しています。

どちらも、見た瞬間に「このブランドはどういう存在か」が伝わるようにデザインされています。

行動経済学ではこれを「認知的流暢性」と呼び、人はスッと理解できるものに好感を持つことが分かっています。

一見、ただのボトルですが、実はここまで計算されて設計されているのですね。

さらに、右のボトルだけが透明であることにも、はっきりとした理由があります。

中身が見えることで、「そろそろ少なくなってきたな」→「買い足そう」という行動が、ほぼ無意識に引き起こされるようになっています。これは、消耗品にとっては、非常に強い行動のトリガー(きっかけ)になります。

逆に、左のMrs. Meyer’sがあえて不透明なのも重要なポイント。こちらは「消耗品」というより、「ちょっと良い体験」を売っているブランドなので、中身が見えてしまうと、使うたびに「減っていく量」「消耗」が意識されてしまう…それは、このブランドにとってはマイナスです。

だから、注意は、「どれくらい残っているか」ではなく、「香り」「使ったときの気分」に向くよう設計されているのです。

ちなみに、この2つ、実際に両方使ってみました。すると、価格が高い左のほうが、やはり「高級な香り」に感じるんですよね!

これはまさに、人は成分の差以上に「使ったときの感情」で価値を判断している、という典型例です。

ところが、企業側はここを見落としがちです。

私がコンサルティングで企業によく聞く質問があります。「御社のお客さんは、なぜ御社の商品を選んでいると思いますか?」

返ってくる答えは、たいていの場合、とても合理的です。「性能が良いから」「使いやすいから」「価格が手頃だから」。

でも、消費者が同じ商品を買い続ける理由は、そこではありません。実際には「香りが好きだから」「使うたびに、ちょっと気分が上がるから」。

それでも企業は「もっと性能を」「もっと効率を」「もっと安く」と、合理性だけを追い続けてしまう。

そして、ある日こう悩むことになる。「いい商品なのに、なぜ売れないのか?」

もし今、伸び悩んでいる商品やサービスがあるなら、企業目線ではなく、「使う瞬間の感情」から見直してみる。それだけで、見える景色は大きく変わりますよ。

FAQ

よくある質問

Q概念メタファーとは何ですか?

人が直感的に、背の高いものには力や権威・高級感を感じ、背の低いものには安心感や親しみやすさを感じる、という行動経済学の研究です。ハンドソープのボトルでは、プチ高級なブランドは背の高いボトルにロゴを上部に配置し、手頃さが売りのブランドは背を低めにしてロゴを中央寄りにしています。

Qハンドソープのボトルが透明か不透明かで、なぜ売り方が変わるのですか?

透明なボトルは中身が見えるため、「そろそろ少なくなってきた」「買い足そう」という行動がほぼ無意識に引き起こされます。一方で不透明なボトルは、減っていく量や消耗が意識されないようにし、香りや使ったときの気分へ注意が向くよう設計されています。

Q人はなぜ性能ではなく感情で商品を選んでいると言えるのですか?

価格が高いハンドソープのほうが実際に「高級な香り」に感じられるように、人は成分の差以上に使ったときの感情で価値を判断しています。企業は「性能が良いから」「価格が手頃だから」選ばれていると考えがちですが、消費者が同じ商品を買い続ける理由は「香りが好き」「使うたびに気分が上がる」といった感情にあることが少なくありません。

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