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最強の行動経済学 保有効果とは?自分のものになると価値が上がって見える心理を行動経済学者が解説

保有効果とは?自分のものになると価値が上がって見える心理を行動経済学者が解説

明るいオフィスでマグカップを両手で持ち、笑顔でノートPCに向かう日本人ビジネスウーマン——保有効果が自分のものへの愛着として現れる場面

What you’ll learn

  • 保有効果とは何か、なぜ「自分のもの」になると価値が上がって見えるのか
  • 「マグカップ実験」(Kahneman, Knetsch & Thaler)で示された保有効果の代表的な証拠
  • 損失回避と心理的所有感という2つの心理メカニズム
  • 日常の買い物から会社の売却まで、保有効果が判断を歪める場面と向き合い方

Author

相良奈美香

Behavioral Economist

相良 奈美香

Namika Sagara

行動経済学者・Ph.D.(オレゴン大学)。行動経済学コンサルティング会社代表として、アメリカ・ヨーロッパの約100社にコンサルティングを提供。イェール大学、スタンフォード大学などで講演。著書『行動経済学が最強の学問である』は累計19万部超のベストセラー。

「保有効果は、私がコンサルティングの現場で、商品やサービスの設計に何度も組み込んできた行動経済学のひとつです。お客様にどれだけ保有効果を感じてもらえるかが、ビジネスの成果を大きく左右します。」

保有効果とは-自分のものになると価値が上がる心理

ネットオークションに出品するとき、自分の持ち物につい高い値段をつけてしまう。そんな経験はないでしょうか。他人から見れば中古品でも、自分のものだとそれだけの価値はあると感じる。これが、行動経済学でいう保有効果です。

保有効果とは、自分が所有しているものに対して、実際以上の価値を感じてしまう現象です。手にした商品を他人よりも高く評価したり、まだ手放したくないという執着が生じやすくなります。

私の著書『行動経済学が最強の学問である』では、これを「認知のクセ」「状況」「感情」の3つに分類しているのです。このうち保有効果は「感情」に該当します。

所有物に愛着が生まれ、手放すことに抵抗を感じる。この感情の動きが、購買判断や売却判断のあらゆる場面で私たちの選択を歪めます。

保有効果は、認知バイアス一覧の中でも、特にビジネスの大きな判断に影響しやすいバイアスのひとつです。

マグカップ実験-保有効果を示した代表的な研究

保有効果を世に広めた代表研究が、ダニエル・カーネマンらが1990年に行った「マグカップ実験」です。

実験では、被験者を3つのグループに分けました。マグカップを持っている売り手、持っていない買い手、そしてマグカップか現金を選ぶ選択者です。

代表的な実験の結果、売り手が提示した中央値は7.12ドル、買い手は2.87ドル、選択者は3.12ドルでした。同じマグカップでも、いったん自分のものになると、手放すために必要な金額が大きく上がったのです。

出典は Kahneman, Knetsch, Thaler (1990) Journal of Political Economy。所有が価値評価を高めることを示した行動経済学の基礎文献です。

なぜ保有効果は起こるのか

保有効果の背景には、行動経済学で広く知られた2つの心理メカニズムがあります。

損失回避(失う痛みは得る喜びの2倍以上)

ひとつめのメカニズムが「損失回避」です。人は同じ金額を得る喜びより、失う痛みを大きく感じる強い傾向です。研究によると、その差はおよそ2倍以上に達することがわかっています。

自分のものになると、それを手放すことは「失う」体験に変わります。だから売り手は、買い手よりも高い金額を求めるのです。この損失回避の傾向は、「プロスペクト理論」という枠組みで体系的に説明されており、保有効果の中核的な原動力です。

心理的所有感(まだ持っていなくても「自分のもの」と感じる)

もうひとつのメカニズムが「心理的所有感」です。実際には所有していなくても「自分のものだ」と感じる心理状態を指します。

たとえばネットショッピングで、商品をカートに入れただけで満足してしまう。まだ買っていない段階から「自分のもの」という感覚が生まれているのです。

心理的所有感が芽生えると、愛着や執着が生まれ、結果として「手放したくない」や「もっと価値がある」と感じるようになります。心理的所有感は、保有効果が発動する前段の心理状態です。

日常とビジネスでの具体例

保有効果は、日常の買い物から大きなビジネス判断まで、幅広く影響します。

ネットオークションとスマホ買い物

ネットオークションで自分のものを売ろうとすると、値付けを高くしてしまう。「他人には無価値でも、自分のものは価値がある」と感じる心理が働いているのです。

スマホやタブレットでの買い物にも同じ傾向が見られます。ある研究では、通常のパソコンよりタッチパネルで操作したほうが、商品により高い金額を払う傾向がありました。指で画面上の商品に触れることで「自分のもの」という感覚が高まり、価値評価が引き上げられるのです。

スマホ買い物で「ついたくさん買ってしまった」と感じる人は、この影響を受けている可能性があります。購入ボタンを押す前に一度カートから離れ、時間を置いてみる。所有感が冷めると、判断は変わります。

会社売却の現場で起きた保有効果

保有効果は、会社を売るような大きな判断にも影響します。

私の友人で、JPモルガンの行動科学部門長を務めるジェフ・クライスラーが、あるクライアントの遺産相続を担当したときの話です。故人となったクライアントが残したのは、資産数十億円相当の会社でした。

子どもたちは事業に全く関わっておらず、会社や業界についての知識もなかったため、経営は難しい状況にありました。しかし、父親が苦労して創業し経営してきた会社を、紙面上で相続してしまったため、どうしても手放せない。そんなこう着状態に陥ったのです。

そこでジェフが保有効果について説明したところ、クライアントの子どもたちは自分のバイアスを理解し、不合理さに気づきました。結果として、会社は適切な相手に売却されることになりました。

自分のバイアスを知ること。大きな判断の場面ほど、この視点が結論を左右します。

ビジネス活用と注意点

保有効果は、企業のビジネス設計に活かせる一方で、消費者にとっては自分の判断を歪めるバイアスにもなります。

活用視点では、無料試用やお試し期間、サンプル提供といった施策が代表例です。サブスクリプションの初期体験も含め、「一度自分のものになった感覚」を生み出す設計が保有効果を活かします。ユーザーに製品を使ってもらい生活の一部に馴染んでもらうと、自然と継続意向が高まるのです。

一方で注意点もあります。「無料トライアル後の解約を困難にする」ような設計で保有効果を狙っても、出口を塞ぐ仕組みは顧客の信頼を失います。保有効果は関係を深める設計には使えますが、解約しづらさで継続を強いる仕掛けに転用してはいけません。

また、保有効果と似た現象に「サンクコスト効果」があります。すでに投じたコストにとらわれるサンクコストと、所有物に価値を感じる保有効果。両者が同時に働く場面では、判断はより硬直しやすくなります。

感情と判断の関係をさらに広く理解したい方は、「アフェクト」についての記事もあわせてお読みください。

保有効果を正しく理解すると、自分の判断を客観視できるようになります。自分はいま、どちらの側で保有効果と向き合っているでしょうか。

まとめ

保有効果とは、自分が所有しているものに市場価値以上の金額を感じてしまう行動経済学の現象です。背景には2つの心理メカニズムがあります。失う痛みを得る喜びより大きく感じる損失回避と、「自分のもの」と感じることで愛着が生まれる心理的所有感です。日常の小さな判断から会社売却のような大きな決断まで、保有効果は私たちの選択を歪めます。一方で、保有効果はビジネス設計に活かすこともできます。ビジネス視点では、お客様にどれだけ保有効果を感じてもらえるかが成果を左右するのです。

FAQ

よくある質問

Q保有効果とは何ですか?

自分が所有しているものに、市場価値以上の高い価値を感じてしまう行動経済学の現象です。マグカップ実験では、売り手の希望価格が買い手の倍以上になりました。

Q保有効果と損失回避の違いは?

損失回避は「失う痛みを得る喜びより大きく感じる」という心理傾向を指します。保有効果は、その損失回避が「自分のもの」を手放す場面で発動した結果現れる現象です。

Q心理的所有感とは何ですか?

実際には所有していなくても「自分のものだ」と感じる心理状態を指します。ネットショッピングで商品をカートに入れただけで満足してしまうのも、この心理が働いた結果です。

Qビジネスで保有効果を活用するにはどうすればいいですか?

無料試用、お試し期間、サンプル提供といった「一度自分のものになった感覚」を生む施策が代表例です。サブスクリプションの初期体験も同じ仕組みで効果を発揮します。

Q保有効果を逆手に取られないためにはどうすればいいですか?

購入ボタンを押す前にカートから離れ、時間を置いて見直す習慣が有効です。保有効果は無料試用や解約困難な契約設計で強められやすいので、契約前に冷静な確認をおすすめします。

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