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最強の行動経済学 「なんとなく好き」の正体

「なんとなく好き」の正体

カフェで直感的にメニューを選ぶ人(アフェクトのイメージ)

What you’ll learn

  • 「なんとなく好き」を生む淡い感じ方アフェクト
  • 感情(エモーション)とアフェクトの違い
  • ポジティブとネガティブ、それぞれの働き
  • 瞬時の判断を支えるアフェクト・ヒューリスティック
  • 個人の気分が市場にまで及ぶスケールの広がり

Author

相良奈美香

Behavioral Economist

相良 奈美香

Namika Sagara

行動経済学者・Ph.D.(オレゴン大学)。行動経済学コンサルティング会社代表として、アメリカ・ヨーロッパの約100社にコンサルティングを提供。イェール大学、スタンフォード大学などで講演。著書『行動経済学が最強の学問である』は累計19万部超のベストセラー。

メルマガ読者のみなさん、こんにちは。

行動経済学者の相良奈美香です。

先日、カフェで初めて入ったお店のメニューを眺めていて、ほんの数秒で「これにしよう」と決めている自分に気づきました。よく考えたわけでもなく、全部を比べたわけでもないですが、ただパッと見て瞬間的に「なんとなくこれがいいな」と感じて決めました。

こういう小さな決め方を、私たちは一日に何十回も繰り返しています。例えば、朝の服選び、ランチのメニュー、メールの返信の順番…。ほとんどの判断は、実は「淡い気分の変化」で決めているんですね。

これまでのメルマガでは、いろいろな「認知のクセ」のお話をしてきました。今日はそこに、もうひとつのレイヤーを加えてみたいと思います。行動経済学が長年研究してきた「アフェクト」という、「淡い感じ方」のお話です。

「気持ち」と呼ぶには小さすぎる、淡い感じ方

「アフェクト」とは、喜怒哀楽ほどはっきりしない、ふんわり浮かぶ淡い感情のことをいいます。「この色、なんだか好きだな」「今日の会議、ちょっと気が重いな」。数分後には忘れてしまうような、あのちょっとした感情が「アフェクト」です。

はっきりとした「感情(エモーション)」との違いは分かりやすいと思います。エモーションには原因があって、強度も高い。一方のアフェクトは原因が曖昧で、本人もあまり意識していない。強度は弱く、持続時間も短い。

ただ、侮れないのは、その頻度です。エモーションが起きる瞬間はめったにありません。一方アフェクトは、起きている時間のほとんどを占めています。つまり、日々の判断の大半は、強い感情ではなく、この淡い気分の変化の中で行われていることになります。

アフェクトは行動経済学の中でも長年研究されてきた大きなテーマで、第一人者のひとりがオレゴン大学のEllen Peters教授です。50本を超える実験論文で、判断と淡い感情の結びつきを丁寧に実証してこられた方で、私自身、米国の大学院ではPeters教授に指導教授として師事しました。研究室では「人間の判断はいつでも、どこかで感情の色がついている」という視点を繰り返し教わりました。

ポジティブとネガティブ、それぞれが運ぶもの

アフェクトには、心地よい方向の「ポジティブアフェクト」と、不快な方向の「ネガティブアフェクト」があります。この2つは、意思決定に対してまったく違う問きかけをしています。

ポジティブアフェクトは「なんとなく気分がいい」「ちょっと楽しい」という淡い感じ方。研究では、こういう状態にあると視野や思考の幅が広がり、新しいアイデアが浮かびやすくなることが分かっています。心理学にはこれを説明する「拡張-形成理論(Broaden-and-Build Theory)」という枠組みもあります。

ネガティブアフェクトのほうは、「なんだかもやもやする」とか、「気が重い」といった淡い不快感です。消したくなる感じ方ですが、実は自分の環境に何か変化が起きていることを知らせてくれる信号でもあるんですね。急いで打ち消すより、ちょっと立ち止まって眺めてみる価値があるものです。

「最大の貢献」とまで言われるアフェクト・ヒューリスティック

アフェクトが意思決定に影響する代表的なメカニズムを、行動経済学では「アフェクト・ヒューリスティック」と呼びます。アフェクトに基づいて、瞬時に判断を下す仕組みのことです。

この概念はとても重要で、ダニエル・カーネマンが「行動経済学の最大の貢献はアフェクト・ヒューリスティックである」と述べているほどです。

冒頭のカフェのメニューもそうでした。初めて見たメニューを数秒で選べるのは、全ての選択肢を合理的に比較しているからではありません。パッと見た瞬間の「なんとなくこれがいいな」という感覚が、判断を先回りしているんですね。

さらに面白いのは、この仕組みが個人を超えたスケールにも現れることです。Spotifyで世界40カ国の音楽再生データを分析した研究があります。ポジティブな楽曲が多く聴かれる時期と、その国の株価の動きに連動が見られたと報告されているんですね。一人ひとりの淡い気分が集まると、市場全体の判断にまで影響する可能性があるというわけです。

日常の中で、自分がいま「なんとなくこっちかな」と感じた瞬間に目を向けてみると、気づくことがあるかもしれません。

FAQ

よくある質問

Qアフェクトとは何ですか?

喜怒哀楽ほどはっきりしない、ふんわり浮かぶ淡い感情のことです。「この色、なんだか好きだな」「今日の会議、ちょっと気が重いな」といった、数分後には忘れてしまうような感じ方を指します。原因が曖昧で強度も弱いぶん、日々の判断の大半はこの淡い気分の中で行われています。

Qアフェクトと感情(エモーション)はどう違いますか?

エモーションには原因があって、強度も高く、起きる場面はめったにありません。一方のアフェクトは原因が曖昧で、本人もあまり意識しておらず、強度は弱く持続時間も短いのが特徴です。ただし起きている時間のほとんどを占めるため、判断への影響は大きいといえます。

Qアフェクト・ヒューリスティックとは何ですか?

アフェクトに基づいて瞬時に判断を下す仕組みのことです。初めて見たメニューを数秒で選べるのは、全選択肢を合理的に比較しているからではなく、「なんとなくこれがいいな」という感覚が判断を先回りしているためです。カーネマンが「行動経済学の最大の貢献」と述べたほど重要な概念です。

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